理由はいろいろ…「会社を辞める」と言い続けて3年も居続ける社員の本心

提供:@DIME

■連載/あるあるビジネス処方箋

 「もう、辞めよう」「俺、辞めるわ」。こんなことを言いながら、なかなか辞めない。そのまま、ずるずると3年も今の職場に居続ける。そして今後もそのままいるような気配のある人が職場にいないだろうか。私が会社員の頃、周囲にいた。上司もそのひとりだった。当時から、私はこの人たちを密かに観察してきた。今回は「辞める」「辞める」と何度も口にしながら、3年もいる社員の本心を分析してみたい。

■注目を浴びたい

 「辞める」と言ってその後、3年もいるならば、本気で辞めようとは思っていない。さすがに「3年」は長い。他社の中途採用試験を受けても、受からないのかもしれない。いずれにしろ、今後、少なくとも数年間は在籍するだろう。もしかすると、10年後もいるかもしれない。いや、定年までいる可能性すらある。 本人は、周囲の社員たちから注目されたいと思っていることが考えられる。あるいは、「大丈夫?」などと同情してほしいと願っているのかもしれない。本来は、仕事ができて、高い人事評価などを得た上で認められるべきなのだが、力がないからそれができない。だからこそ「辞める」と言う発言で、周囲の関心をひこうとする。

■自分を奮い立たせている

 「辞める」と言いながら、3年間もいる人は、自分を奮い立たせているのだ。つまり、「よし、辞表を出すぞ!」と言い聞かせている。会社を辞めることに慣れていない人は、辞表を出すことで緊張する。委縮し、上司や人事部ときちんと話し合うことができない人もいる。「辞める」「辞める」と繰り返すことで、自分にカツを入れているのだ。「俺は、辞めることなんか、怖くないぞ」と言いきかせているのだろう。「辞める」と言って辞表を出し、退職するまでは、通常、上司や人事部も機械的に、事務的に対応することが多い。そうでないと、業務が進まないからだ。つまり、一人の社員の退職のことまで真剣には考えていないのだ。そんな時間も心の余裕もない。ところが、辞めることに慣れていない人は自意識過剰になり、深刻に考えてしまう傾向がある。

■上司へのSOS

 「辞める」と何度も繰り返し、3年間もいるのは、上司や会社へのさりげない抗議とみることもできる。例えば、人事の処遇や担当する仕事、その量やノルマ(目標)などについて不満がある。ところが、面と向かい、言えない。そこで「辞める」と口にし続けることで、自分の意見や考えを受け入れてもらおうとしている可能性がある。「俺の不満を聞いてくれ!」「私をもっと認めて!」と言いたいのだろう。「辞める」と言っていれば、上司の自分への対応が変わると思い込んでいること自体に問題があるのだが、それもわかっていない。

■漠然とした不満

 「辞める」「辞める」と繰り返すが、その理由が自分でも正確にはわかっていない。なんとなく辞めたい、のだ。上司、周囲の社員との関係、会社の将来、仕事そのものなど、様々なことに不満がある。だが、経験が浅いこともあり、それらを突きつめて考え抜き、「自分はなぜ、不満なのか」と具体化することができない。その漠然とした不満を解消するために「辞める」と何度も言うのだ。本気で辞めようとは思っていないから、3年が過ぎてしまう。

 本来、会社を辞める時、せめて自分の不満を具体化しておくべき。それができてないと、転職の際の面接試験でも、説得力のあることを話すことができないだろう。たとえ、次の会社へ移っても、早々と辞めていく可能性がある。自分の不満を突き詰めていないと、やりたい仕事もなかなか見つからない。

■口ぐせ

「辞める」が、口ぐせになっていることもある。くせになっているからこそ、3年間も仕事が続き、人前で平気で言える。くせだから、10~20年後も大きくは変わらないだろう。40~50代になっても、60歳以降も「辞める」と繰り返している可能性がある。本人もそれほど真剣には意識していないし、周囲も気にかける必要はない。むしろ、本人は「辞める」と言わないと、心が落ちつかないはず。くせである場合は、周囲もそのままにしておくべきだ。あえて、「なぜ、辞めるの?」などと聞かないほうがいい。答えられないはずだ。 会社に残る場合も、辞める時も「辞める」「辞める」と何度も口にはしないほうがいい。「辞める」という意思表示は、きわめて重要なもの。安易に口にするべきではないのだ。繰り返していると、信用を間違いなく失う。ビジネスは、信用こそが基本。決して忘れないことだ。

 文/吉田典史ジャーナリスト。主に経営・社会分野で記事や本を書く。近著に「会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ」(KADOKAWA/中経出版)。

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