「宇宙の謎に迫る国家プロジェクト」に、日本学術会議が猛反発のワケ (3/3ページ)

「ねたみ」や「そねみ」が抑えられない

 そんな状況の中、日本の国際競争力のためと推進されているのがILC計画だ。ここで行われる研究は「宇宙の謎」という壮大なスケールだけあって、すさまじいスケールの費用がかかる。

 まず、完成までの10年で総工費は7355~8033億円。国際協力プロジェクトなので、その半分はさまざまな国に負担をしてもらう構想だが、それでも1年に400億円かかる。そして、できたらできたで今度は、運転や維持に年間200億円程度のコストがかかる見込みなのだ。

 そんなにかかるのかと驚くかもしれないが、もっと驚くことを言ってしまうと、これはすべて我々の血税でまかなわれるのだ。

 さて、ここまで話せば、もう何を言わんかお分かりいただけるだろう。多くの研究者が国から満足な研究費をもらえなくて不満が募っている。そんな中で毎年、数百億円というケタ外れの税金が投入され、素粒子研究の施設が造られる。露骨な「えこひいき」である。

 その「科学的意義」を審議しろ、と素粒子研究に携わっていない研究者たちがお役所から頼まれた。果たして、彼らに冷静かつ客観的な審議ができるだろうか。

 できるわけがない。甲子園を目指す野球部や、全国を狙えるサッカー部に潤沢な予算がつけられるのを、恨めしそうに眺める他のマイナー競技の生徒たちに、「野球やサッカーの良いところをみんなで言い合ってくれ」という無茶ぶりをするようなものであって、「悪口大会」になるのは目に見えている。

 筆者もこれまでいろいろな研究者の取材をさせていただいたのでよく分かるが、研究者の皆さんは「自分の研究が一番」だと思っている。自分の研究こそが世界を変える、社会に役に立つという強い信念を持って日々、研究に勤しむ方も多い。

 そのような研究者からすれば、ILC計画ほど不条理な話はない。どんなに立派な科学者であっても人間である以上、どうしても「ねたみ」や「そねみ」が抑えられないものなのだ。

そろそろ建設的な議論を

 そんなのはお前の妄想だと思うかもしれないが、今回の検討会の「案」の中にも、そんな負の感情がちらほらと垣間見えている。

 『なお、ILC計画への予算投入が他の科学技術・学術分野に影響を及ばさないように、「別枠の予算措置とする」との議論があると聞いている。(中略)仮にも「別枠予算」という位置づけが、学術コミニティにおける批判的検討の機会をバイパスするようなことにつながるとすれば、日本の学術全体にとって、そしてILC計画自体にとっても不幸なことである』

 とって付けたような記述だが、実は検討会の皆さんが一番言いたいことはこのあたりのような気がしてならない。いずれにせよ、このような不平不満感丸出しの人たちに、「意義」を審議せよ、といくらお願いしても、結局のところ、限りあるカネを奪い合う「パワーゲーム」に流れていくのではないか。

 研究者の皆さんで丁々発止やるのも結構だが、年間数百億円のカネを払うのは我々国民である。にもかかわらず、国民の間ではILCに関しての認知は進んでいない。マスコミの友人たちに話しても「何それ?」と言われる始末だ。

 「ねたみ」や「そねみ」のないフラットな人間たちの間で、本当に実現できるのか、安全性はどうなのか、そして、ILCでどういう未来を描きたいのか、という建設的な議論もそろそろ始めるべきではないのか。