「宇宙の謎に迫る国家プロジェクト」に、日本学術会議が猛反発のワケ (2/3ページ)

ILC計画を快く思っていない人たち

 なんて話を聞くと、「素晴らしい! 人口減少でいろいろ大変な中で、日本の国際競争力を上げるためにも、東北の復興のためにも、じゃんじゃんやるべきだ!」と鼻息が荒くなる人も少なくないだろうが、このILC計画を快く思っていない方もいらっしゃる。

 一部の科学者の皆さんである。

 活躍する女性の方たちから、「女の敵は女」みたいな話をよく聞くが、こちらもご多分に漏れずというか、同じく科学を探求する方たちの中から、ILC計画にかなり厳しめのダメ出しが出ているのだ。

 その代表的な例が、日本学術会議で行われている「国際リニアコライダー計画の見直し案に関する検討委員会」だ。

 日本学術会議とは、「我が国の人文・社会科学、生命科学、理学・工学の全分野の約84万人の科学者を内外に代表する機関」(Webサイトより)で、国への政策提言や国際活動、科学者間のネットワーク構築などが主な役割だ。

加速器関連分野への波及効果(出典:ILC)

加速器関連分野への波及効果(出典:ILC)

 ということもあって今年7月、文科省の研究振興局長から、「ILC計画における学術的意義」や「我が国で実施することの国民及び社会に対する意義」などを審議してちょうだいよ、と依頼を受けて、「所見」をまとめているのだが、それがかなり辛口なのだ。

 例えば、11月14日に検討会があったので傍聴したところ、現時点の「案」だという断りはあるものの、ILCに対して以下のような表現がバンバン飛び交っていた。

 「ILC建設を正当化する主たる根拠とはなり得ない」「コンセンサスが形成されている状況にはない」「万が一の事故対策などに関する記述が少ないことは懸念材料」「不確定要素が大きい」

 国際協力の見通しや、予算、運営をしていく上での人材などごもっともな指摘も少なくないものの、現時点で「計画」に過ぎないILCの「意義」を審議するはずが、計画そのものを白紙にしろと言わんばかりの勢いで、「ちゃぶ台返し」なのだ。

 もちろん、あえて「高めの球」を投げた可能性も否めない。この手の検討会を取材するとよく見かけるパターンなのだが、最初にかなりネガティブ方面へ舵(かじ)を切った「案」をドーンとぶちまけてから、議論をしていく中で、両論併記的な角の取れた答申にする、という展開が多々あるからだ。

 ただ、それをさっぴいても、何か恨みでもあるのかというくらい「批判」のクセが強いのだ。

状況は改善せず、悪化するばかり

 それが筆者の気のせいではないことは、検討会が終わってから、委員長として案をまとめている東京大学・家泰弘名誉教授のマスコミの囲み取材で、記者から「一言で言うと否定的」というような感想が相次いだことからも明らかだ。

 では、なぜ日本学術会議という、「学究の徒」を代表する人々が、ハタから見ていて心配するくらい、ILCに否定的なのか。

 いろいろなご意見があるかもしれないが、推進派、否定派の皆さんの主張を俯瞰(ふかん)してみると、ここと非常に似ている現象があることに気付く。

 それは、「部活動の予算配分をめぐるゴタゴタ」だ。

 体育会であっても文化部であっても、部活動をするにはどうしてもお金がかかる。が、予算は限られているので、どうしても野球部とかサッカー部という花形の分配が多くなり、部員の少ないところなどはスズメの涙なので不満が爆発--。

 よくスポ根マンガや学園ドラマなどにも登場するワンシーンだが、実はILCに関しても同じことが起きている可能性が高い。

 ご存じのように、近年、研究者個人へ振り分けられるカネが減っている。科学技術関連予算の総額は減っていないものの、日本の競争力を上げるような大型プロジェクトに予算が集中されているからだ。

 文科省が2016年7月に行ったアンケートでも、所属機関から研究者に支給される個人研究費は、「50万円未満」と答えた教員が6割にのぼったのだ。

 こんなことでは日本の科学競争力はジリ貧だ、とノーベル賞を受賞するような方たちがずいぶん前から、苦言を呈しているが状況は一向に改善せず、悪化するばかりである。

「ねたみ」や「そねみ」が抑えられない