ここで立ち止まって考えたい。中年たちが当時、リアルタイムで楽しんでいたお笑いやギャグは、本当に面白かったのか。当時は単に選択肢がなく、今よりもテレビや漫画雑誌の影響力が強く、みんなが知っていたがゆえに、なんとなく面白がっていたのではないか。「売れたもの」と「良いもの」がイコールとは限らないように、「流行ったもの」と、「面白いもの」は違うのだ。ここで「そんなの関係ねえ!」とか「ワイルドだろぉ~」などと叫んでブチ切れてはいけない。
よく昔のお笑い番組のDVDなどが発売される。思わず買ってしまったことがあるのだが、あくまで「懐かしい」のであって、「面白い」とは限らない。それは当時の時代の空気と、年齢などが相まって面白く感じたにすぎない。
フジ炎上の「保毛男田保毛男」は当時から不愉快だった
フジテレビが先日、30年前『とんねるずのみなさんのおかげです』に登場していた名物キャラクター「保毛男田保毛男」を放送し、大炎上し、社長が謝罪という事態に発展するという事件があった。まあ、申し訳ないが、「ない」だろう。これだけセクシャルマイノリティーへの配慮が叫ばれる時代だ。
ここも、そもそも論なのだ。保毛男田保毛男は面白かったのか、と。ぶっちゃけ、当時から意味不明だった。別に面白いわけでもなく、何が言いたいのかわからない感じではあった。当時から不愉快だった。
「色々と息苦しい世の中になってないか」という意見もあることだろう。いやいや、むしろ今までは差別や偏見を受けて息苦しいどころか苦しい思いをしていた人がいたのだ。自分の論理だけで考えてはいけない。
中年が考えたいのは「昔はよかった」的な話ではない。そもそも、「あれは、面白かったのか」という視点である。この保毛男田保毛男も、当時は選択肢が少なかったがゆえにそれなりに流行ってしまったのだと私は解釈している。そもそも論として、「面白かったのか」ということも問い直したいのだ。そして、懐かしいものを出すことにメディアが依存しているとしたならば、これはやばいぞと思うのだ。
サラリーマンの処世術的に言うならば、昔のギャグには気をつけろ、それがおっさん認定されるキッカケになっているのだ。ダメよダメダメ。
【プロフィル】常見陽平(つねみ・ようへい)
千葉商科大学国際教養学部専任講師
働き方評論家 いしかわUIターン応援団長
北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、バンダイ、クオリティ・オブ・ライフ、フリーランス活動を経て2015年4月より千葉商科大学国際教養学部専任講師。専攻は労働社会学。働き方をテーマに執筆、講演に没頭中。主な著書に『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社)『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)『「就活」と日本社会』(NHK出版)『「意識高い系」という病』(ベストセラーズ)など。
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【常見陽平のビバ!中年】は働き方評論家の常見陽平さんが「中年男性の働き方」をテーマに執筆した連載コラムです。更新は隔週月曜日。