食品サンプル大手の「いわさき」(大阪市東住吉区)によると、ろうで作られたサンプルは大正末から昭和初期にはすでに大阪で作られていたという。もともと江戸時代から、料理屋では「本日の料理」として本物を店先に置いて、店じまいになると捨てられていた。食品サンプルは、日本人が持つ「もったいない」という心から生まれたともいえる。
いわさきでは、創業者の岩崎瀧三が昭和7年、妻のアドバイスもあって寒天などで型を取り、ろうで忠実に再現したのが始まり。この年に大阪市内の百貨店の食堂に並べたところ、リアルさが評判となりたちまち全国に広まったという。
「食品サンプルはおもちゃではない」と力を込めるのが、サンプルの魅力を文化として情報発信する食品模型会社経営の志賀竜男さん。「これを食べたい、と視覚から訴えるのは日本独自の感性。たこ焼き、お好み焼きに並ぶような大阪の伝統文化。クールジャパンとしてアピールしたい」と熱く語る。
志賀さんによると、食品サンプルは、印刷技術が発達してカラフルなメニューブックが増えたことなどで、一時は業界自体が存亡の危機に見舞われた。しかし、日本食ブームや訪日外国人の土産としての需要も増え、活性化している。
デザインポケットは、将来を見据えた職人の育成にも力を注ぐ。もともと閉鎖的だったサンプル作りの技術を伝えようと、道具屋筋の店舗近くに教室を開き、約20人の生徒が学ぶ。