■陽子内部のグルーオンの向きを精密測定
□理化学研究所 仁科加速器研究センター 理研BNL研究センター実験研究グループ 研究員・後藤雄二
陽子はクォークとグルーオンと呼ばれる素粒子により構成される。全ての粒子はスピンと呼ばれる「向き」を表す固有の性質を持ち、陽子の向きは“陽子内部のクォークの向きの合計で決まっている”と考えられていた。しかし1980年代に、光を用いて陽子内部を調べたところ、クォークの向きだけでは陽子の向きを説明できないことが分かり、原子核物理学の大きな問題となった。
これを解明するには、陽子の内部に存在し光とは直接反応しないグルーオンを調べなければならない。それには、陽子同士を高エネルギーで衝突させることができる偏極陽子衝突型加速器が必要となる。この加速器を用いて陽子同士を衝突させると陽子内部のグルーオンの衝突が起こり、中性π(パイ)中間子が生成され、グルーオンを調べることができる。
理化学研究所の研究者らが参画する国際共同研究グループは偏極陽子衝突型加速器「RHIC」を使い、これまでで最高の衝突エネルギー510GeV(ギガエレクトロンボルト)でグルーオンの向きを精密測定することに成功した。衝突エネルギーを高くすると、逆に陽子内部のエネルギーの低いグルーオンに対する感度が高くなるため、これまでで最もエネルギーの低いグルーオンを測定したことになる。今回の結果は、量子色力学(QCD)に基づく理論計算が低いグルーオンのエネルギー領域でも有効であり、グルーオンの向きの精密測定に利用できることを示した。この成果は、陽子の向きの謎の全容解明に向けた大きな一歩となる。
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