【Science View】 (1/5ページ)

2016.2.18 05:00

陽子は大きいエネルギーを担う2個のアップ(u)クォークと1個のダウン(d)クォーク、さらに小さいエネルギーを担うクォークと反クォーク、およびこれらの粒子を強い相互作用で結びつけるグルーオンから構成されている。陽子内部では、クォークと反クォークの対が生成・消滅している

陽子は大きいエネルギーを担う2個のアップ(u)クォークと1個のダウン(d)クォーク、さらに小さいエネルギーを担うクォークと反クォーク、およびこれらの粒子を強い相互作用で結びつけるグルーオンから構成されている。陽子内部では、クォークと反クォークの対が生成・消滅している【拡大】

  • 後藤雄二さん
  • 図は刺激強度の上昇がある値に達したとき、スイッチが入ったようにERKの核移行が起こる様子を示している。ERKの核移行には閾値(0.05ng/mlあたり)が存在し、その応答はデジタルであるといえる
  • 新土優樹さん

 ■陽子内部のグルーオンの向きを精密測定

 □理化学研究所 仁科加速器研究センター 理研BNL研究センター実験研究グループ 研究員・後藤雄二

 陽子はクォークとグルーオンと呼ばれる素粒子により構成される。全ての粒子はスピンと呼ばれる「向き」を表す固有の性質を持ち、陽子の向きは“陽子内部のクォークの向きの合計で決まっている”と考えられていた。しかし1980年代に、光を用いて陽子内部を調べたところ、クォークの向きだけでは陽子の向きを説明できないことが分かり、原子核物理学の大きな問題となった。

 これを解明するには、陽子の内部に存在し光とは直接反応しないグルーオンを調べなければならない。それには、陽子同士を高エネルギーで衝突させることができる偏極陽子衝突型加速器が必要となる。この加速器を用いて陽子同士を衝突させると陽子内部のグルーオンの衝突が起こり、中性π(パイ)中間子が生成され、グルーオンを調べることができる。

 理化学研究所の研究者らが参画する国際共同研究グループは偏極陽子衝突型加速器「RHIC」を使い、これまでで最高の衝突エネルギー510GeV(ギガエレクトロンボルト)でグルーオンの向きを精密測定することに成功した。衝突エネルギーを高くすると、逆に陽子内部のエネルギーの低いグルーオンに対する感度が高くなるため、これまでで最もエネルギーの低いグルーオンを測定したことになる。今回の結果は、量子色力学(QCD)に基づく理論計算が低いグルーオンのエネルギー領域でも有効であり、グルーオンの向きの精密測定に利用できることを示した。この成果は、陽子の向きの謎の全容解明に向けた大きな一歩となる。

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