子育てできず「時短切れ転職」 ワーキングマザー、残業が壁に

 
転職先の職場で上司と話す高野佳奈子さん=7月、東京都内

 ワーキングマザーの間で、短時間勤務(時短)が適用されなくなる時期に派遣など非正規の仕事に変わる「時短切れ転職」が増えている。残業の多い職場に復帰し、子育てが立ちゆかなくなるケースがほとんどだ。育児休業など両立支援の枠組みは整えられつつあるが、残業が乗り越えられない壁となっている。

 「育休は問題なく取れる。でも復帰した女性の多くは、残業がネックになり辞めていった」。高野佳奈子さん(36)=川崎市=は、営業職の正社員として働いていた前の職場を振り返った。

 高野さんは長女が3歳になった2月、午後4時半までの時短勤務が切れるタイミングで転職し、契約社員として働く。

 終業時間の午後6時半に会社を出ても、保育園に着くのは午後8時すぎ。「同僚は残業や夜間の呼び出しをこなしており、毎日定時で帰るのは難しかった」という。

 システムの保守・管理をしていた都内の女性(41)も、時短切れが迫り派遣社員に転じた。6歳の長男がいる。障害が起きれば深夜にも業務が生じ「時短なしでは働けなかった」と話した。

 育児・介護休業法は、3歳未満の子がいる親が希望した場合、原則1日6時間の時短勤務制度などを設けるよう企業に義務づけている。これに関し罰則規定はなく、厚生労働省の調査によると、制度がある企業は2015年度で約6割だ。残業の少ない職場では、時短を取らずに働き続ける女性も多い。

 だが残業が日常化していると、両立は難しくなる。大半の保育所や学童保育所は、夜8時以降の預かりに対応していない。親として、夜遅くまで子供を預けることへの抵抗も強いためだ。

 短時間でも経験を生かせる仕事をしたいというニーズに応える企業も出てきている。人材派遣会社のビースタイル(東京都新宿区)は、正社員経験のある女性らを、時短で企画、営業や専門性の高い業務へ派遣する「時短エグゼ」を展開する。リクルートホールディングスも基幹業務に時短のアルバイトなどを採用し、専門性に見合う給与を支払うと発表した。

 それでも、正社員以外の働き方に転じると所得が減ったり、経験が評価されなくなったりする例が多い。育ててきた人材が失われる企業にとっても痛手だ。

 政府は9月、女性活用を促すため、残業抑制を柱とする「働き方改革」の議論を始めた。リクルートワークス研究所の石原直子研究員は「企業や職場が『フルタイム勤務なら残業するのは当然』という認識を改めることが重要だ」と話している。