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山間の廃線跡を走る“無人車両” 地方で始まる自動運転サービスを徹底ルポ (3/3ページ)

SankeiBiz編集部
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 現在のZENドライブの運行は運転手が乗る平日の場合、永平寺前にあたる志比から東古市までの全区間で上り下りあわせて8本。小学校前の停留所から下校に使う児童も数人いるが、地元住民の多くは自家用車で移動するためニーズは決して高くない。永平寺町の山村氏は「ZENドライブの運行にかかる予算は年間1000万円。税金を使っている以上、サービスの拡大はニーズを見極めながら進めことになる」と明かす。

 町全体の活性化が必要

 コストはZENドライブの開発段階でも重要な課題だった。産総研の加藤晋首席研究員は電磁誘導線方式を採用した理由について、「路面に埋めた電磁誘導線には20年の耐久性があり、メンテナンスの費用も安い。持続的なサービスの実現にはコストへの配慮も必要で、最先端の技術にこだわらず、地域の実情にあった技術を選ぶことが重要だ」と話す。

 最先端技術を活用したレベル3の自動運転の代表例が、トヨタ自動車が東京五輪・パラリンピックの選手村で運行した自動運転サービスだ。電磁誘導線に頼らずに走行できる自由度があるが、車両が高価であることはもちろん、メンテナンスなどの運用コストも考えれば、永平寺町のような小さな自治体で長期間運用することは難易度が高い。

 ただ、コストに配慮したZENドライブでも収益性の確保は容易ではない。永平寺町の人口は15年の国勢調査で1万9883人。旧永平寺町、旧松岡町、旧上志比村が合併する前だった00年調査での合計人口2万1182人から人口減が進んでおり、交通手段だけではなく、町全体の活性化が必要な状況だ。

 明治大学自動運転社会総合研究所の萩原一郎・研究特別教授は永平寺町のような自治体が抱える問題の解決について、「自動運転サービスを導入するだけでは不十分」と指摘。「先端技術を備えた車両をメンテナンスしたり修理したりできる人材を育成するなどして、地域に関連産業の雇用を生み出すことが重要だ」と指摘する。

 「先祖から引き継いだ土地を守る」

 10月16日午後5時40分過ぎ、すっかり日が落ちた永平寺近くの荒谷地区のバス停から、両手に大きな荷物を抱えた男性(73)が路線バスの最終便に乗り込んだ。今は空き家になった荒谷地区の実家で庭や田んぼの手入れをして、福井県敦賀市の自宅に戻る途中だという。

 男性は運転免許は持っているものの、1日かけた屋外での力仕事の後で片道70キロの夜道を運転するのは辛い。月に2度ほどの実家通いでは路線バス、えちぜん鉄道、JR西日本の北陸本線を乗り継いでいる。

 「先祖から引き継いできた土地を手入れして守ることは当たり前。このあたりには永平寺もあれば自動運転サービスもある。なんでもやれることはやって、地域を元気にしていけばいい」

 男性が口にした言葉は、ふるさとを守ろうとする住民たちの思いと新しい技術の共存が、地域の未来をかたち作ることを物語っている。

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