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山間の廃線跡を走る“無人車両” 地方で始まる自動運転サービスを徹底ルポ (2/3ページ)

SankeiBiz編集部
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 システムの開発には、国立研究開発法人の産業技術総合研究所や日立製作所、慶應義塾大学SFC研究所、豊田通商などが結集。また、運行にあたっては実際に事故が起きるシナリオも想定され、永平寺町は非常時の対応について消防当局と何度も協議を重ねた。

 2022年度にはレベル4を実現

 「ちょっと買い物に行ったり、公民館に行ったりという用事があるとき、便利に使っています」。ZENドライブの停留所の近くに住む辻正子さん(78)は笑顔で話す。

 運転免許をもっていない辻さんは2年前、どこへ行くにも車を運転してくれていた夫と死別。とたんに生活が不便になった。今は30分から1時間に1本程度の路線バスに加え、ZENドライブも利用できるようになり、暮らしやすくなったという。

 「自動車王国」とも呼ばれる福井県は、20年3月末の100世帯あたりの自動車保有台数が172.7台で、47都道府県でトップだ。永平寺町では民家の前に3台の自家用車が並んでいる光景もよくみかける。

 それだけに辻さんのように突然、車による移動ができなくなった場合の影響は大きい。永平寺町総合政策課の山村徹主査は「マイカーが主要な移動手段とはいえ、高齢になれば運転も辛くなる。永平寺町のような地方でも核家族化は進んでいて、送り迎えできる子供たちが同居していないことも多い」と話す。

 ZENドライブはこうした地域の問題に対する解決策のひとつだ。永平寺町は政府の事業として産総研などが16年度に企画した自動走行の社会実装に向けた実証実験の候補地に名乗りを挙げ、研究開発に協力してきた。

 国の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)が決定した官民ITS構想・ロードマップでは、システムが運転の主体となり、さらに緊急時の対応も行う「レベル4」の自動運転について、22年度の実現を目指すと明記されている。今年7月、産総研、ヤマハ発、三菱電機、通信システムの開発を手掛けるソリトンシステムズの4社が国からレベル4自動運転サービスに関する事業委託を受けており、永平寺町での取り組みをさらに進化させる見通しだ。

 高いマイカー依存度で厳しい採算性

 ただしZENドライブは日本の自動運転サービス実用化の先頭を行く取り組みとはいえ、高齢化が進む永平寺町の課題をすんなり解決できるわけではない。自家用車の運転が辛くなった高齢者の移動手段確保という課題の背景には、マイカー依存度が高いために、ZENドライブを含む公共交通機関の採算をとることが難しいという問題があるからだ。

 京福電鉄の永平寺線が02年に永平寺駅から東古市駅(現在のえちぜん鉄道永平寺口駅)までの運行を終えて廃線となった理由にも、マイカー依存度の高さが挙げられる。永平寺近くで料理店を営む井上隆二さん(59)は「以前は電車や路線バスを使う人も多かったが、だんだんマイカーが普及して電車の利用客が減り、よりいっそうマイカーが不可欠になった」と話す。

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