2時間で200人以上が来場、完売に
池袋駅構内の直売所に農産物が運び込まれた頃には、発売開始時刻の午後7時まであと40分足らずとなっていた。これから膨大な量の野菜を袋詰めする作業をしなければならない。この日の値段設定は1袋一律500円(税込み)。販売作業を担当するのは、運搬を担当した浦辺さんらを含む学生4人だ。袋に貼られている値札に合わせ、500円分の野菜を手早く組み合わせていく。
その間も、開店を今か今かと待ちわびる通勤客らが列をなしていった。「直売所を目掛けてわざわざ立ち寄った」というリピーターも少なくないといい、開店前には30人以上の行列に。午後7時、開店と同時に袋詰めされた野菜が飛ぶように売れていった。
「東松山の直売所で売られていた朝採れ野菜です! おいしく、お得な食品ロス削減の取り組みにぜひご協力ください!」
東武鉄道の職員も加わり、駅構内に威勢のいい声が響く。利用客からは「美味しい」「スーパーで買うより物が良くてお買い得」といった声が寄せられ、袋詰めパックも「スーパーでは見かけない野菜も入っていて面白い」と好評のようだ。
東京の郊外で収穫され、余った野菜を都心で再販するという試みは、フードシェアリングサービス「TABETE」を運営するコークッキング(東京都港区)が、東松山市や東武鉄道、JA埼玉中央などと連携して実施。東松山市内5カ所の直売所で売れ残った農産物をコークッキングが定価の半額で買い取っている。8月の本格稼働を目指し、現在は実証実験として行われている。
消費者にとっては新鮮な野菜を手ごろな価格で入手できるのが最大のメリットだが、食品ロス対策としての取り組みも付加価値となっている様子。「おいしくて安くて、食品ロス対策にも貢献できて嬉しい」といった声もあった
客層はほぼ女性が中心で、袋の中身を見て選ぶ真剣な様子はバーゲン会場さながらの雰囲気。野菜の中でも圧倒的に数が多いキュウリは500円(同)で詰め放題となり、注目を集めていた。コークッキングの川越一磨・最高経営責任者(CEO)は「限られた時間内で食品ロスを減らす作戦です」と話す。
直売所の営業は午後9時で終了。200人以上の来場があり、電車で運ばれてきた農産物は完売した。
プロジェクトを担当する東武鉄道営業部東上営業支社の鈴木綾乃さん(24)は、「コロナ禍で鉄道営業収入が減少し、新しい取り組みを始めなければと考えていたところに東松山市からこのプロジェクトの話を頂戴しました。社としても非常に前向きに、スピード感をもって進められています」と語り、こう続けた。
「地域の問題に取り組めるのは沿線地域とつながりがある当社の強み。収益ということよりも、まずは沿線地域に対して鉄道会社ができることは何かを考えていきたいです」
(後藤恭子)
【Bizプレミアム】はSankeiBiz編集部が独自に取材・執筆したオリジナルコンテンツです。少しまとまった時間に読めて、少し賢くなれる。ビジネスパーソンの公私をサポートできるような内容を目指しています。アーカイブはこちら