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「食品ロス」を防げ!東武鉄道と生産者の奔走に密着 朝採れ野菜が夜の池袋駅に並ぶまで (1/2ページ)

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部

 午後7時過ぎ、東武東上線の池袋駅は家路を急ぐ人たちであふれていた。駅構内の一角に人だかりができている。「TABETEレスキュー直売所」と銘打たれた野菜の即売会場。埼玉県東松山市周辺のJA直売所で余った農産物を東上線の電車で運んできたものだ。帰宅途中の会社員や主婦らが熱心に品定めするキュウリやトウモロコシなどは、売れ残りとはいえ、その日に収穫したばかりの朝採れ野菜。産地と消費地を電車でつなぐことで、「食品ロス予備軍」を「産地直送野菜」に転換させるプロジェクトだ。

 1時間以内に直売所から駅へ

 「このトマト、きれいだから池袋に持ってく?」

 池袋駅構内に野菜が並ぶ約3時間前、50キロほど離れた東松山市の直売所「いなほてらす」で、生産農家の高齢の女性が瑞々(みずみず)しいトマトを直売所のスタッフに差し出した。直売所が閉まるのは午後4時。どんなに新鮮な農産物でも、一部は売れ残ってしまう。余った農産物は出品者が持ち帰ることになっているが、食べて消費できない分は廃棄することもあった。

 「少しでも食べてもらえる機会があるなら嬉しいよね」。トマトは運搬用のコンテナに詰められ、東武東上線の電車で池袋駅まで運ばれることになった。手塩にかけて育ててきたトマトの「池袋行き」が決まり、女性もほっとした様子だ。

 農産物を運搬する箱(コンテナ)は24ケース。プロジェクトに参加する東松山市周辺の5つの直売所で残り具合を調整しながら、その日のケースの配分を決める。

 この日、いなほてらすに割り当てられたコンテナは8ケース。直売所と東武東上線の池袋駅をつなぐプロジェクト「TABETEレスキュー直売所」に参加している41軒分の野菜を詰め込み、約5キロ離れた東武東上線の森林公園駅(同県滑川町)まで車で運ぶ。農産物を運ぶのは池袋行きの快速急行電車。森林公園駅の出発時刻は午後4時58分のため、時間との戦いだ。まさに人海戦術、スタッフ総出で作業が進められる。

 池袋方面の電車が発着する森林公園駅に、農産物を満載したコンテナが各直売所から次々と運び込まれてくる。ホームには、川越の四季折々の風景がデザインされたラッピング電車「池袋・川越アートトレイン」が停車していた。コンテナは先頭車両の運転席寄りのドアから車内に運び込まれ、手際よく積み上げられていく。搬入が終わると、食品ロス対策を目的とした実証実験であることを示す横断幕がコンテナの上にかけられた。

 全ての作業が完了したのは出発時刻の6分前だった。「あとはよろしく!」。“任務”を終えて安堵(あんど)する直売所のスタッフらに見送られ、農産物を満載した電車は一路、池袋へと向けて動き出した。

 停車時間内に運び出す“ミッション” 

 池袋までの停車駅は7駅。東武東上線といえば、都心と埼玉県の郊外を結ぶ通勤路線だけに、乗り合わせた客はみな物珍しそうに見ていた。中にはスマートフォンのカメラを向ける若者も。

 「親戚が農家で、幼い頃から廃棄される野菜を見て、もったいないと思っていました」

 東松山市にキャンパスを置く大東文化大2年の浦辺晴佳さんが、積み上げられた農産物のコンテナを見つめる。電車での運搬業務を担うのは浦辺さんら同大の学生2人。食品ロス問題に貢献したいという思いでプロジェクトへの参加を決めたという。池袋駅までの車中も、買い取った農産物の金額を計算したり、乗客を誘導したりと休む間はない。

 森林公園駅を出発して約50分。終点の池袋駅が近づくと、彼女たちに緊張が走る。ターミナルを利用する大勢の乗客の動きを妨げることなく、コンテナを運び出さなければならないからだ。

 乗客の足が途絶える時間が限られるなか、荷物をどう運び出し、駅構内を直売所までいかに運んでいけばよいか。もはや、ちょっとした“ミッション”だが、東武鉄道が乗客の流れを踏まえ、絶妙なタイミングと動線を考案していた。浦辺さんらは、東武鉄道が編みだした動線とタイミングに従い、慎重かつ足早に数十メートル先の改札の外へと運び出していく。

 東武鉄道の広報担当、野原ほのかさん(25)は「(東松山市周辺の)直売所の閉店時間、池袋駅での販売開始の時間を踏まえ、最も効率よく運べる便を考慮した結果がこれでした」と胸を張る。

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