高齢化・過疎化で疲弊する地方の活性化に取り組むパソナグループ。その実験場として注力しているのが「食の宝庫」といわれる兵庫県淡路島だ。2008年に独立就農を支援する農場「パソナチャレンジファーム」を立ち上げ、農業に挑戦する若者を誘致。これを皮切りに農業の6次産業化を推進し新たな食文化を発信して観光客を呼び込み、地域交流も盛んになった。「人を生かす、育てる」パソナの本領発揮といえる。人を誘致して産業を興し雇用を創る独自プロジェクトは地方創生の成功モデルになり得る。
周辺産業にも波及
JR新神戸駅から車で明石海峡大橋を渡って約1時間、瀬戸内海を一望できるオーシャンビューときれいなサンセットがインスタ映えすると注目を集める淡路島西海岸に到着した。
そこで出迎えてくれたのは、巨大な「ハローキティ」の建物。ここを入り口にパソナによる淡路島の地方創生プロジェクトが展開、古代日本で「御食国(みけつくに)」と呼ばれた淡路島ならではの豊かな食材を生かした料理を振る舞う飲食施設や観光施設が点在する。
食材供給元の一つが、若者の独立就農を支援するチャレンジファーム。当初2.5ヘクタールだった農地は6.5ヘクタールまで拡大。おいしく、安全・安心な農作物を消費者に届けるため16年8月にJGAP(食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証)を取得、19年8月から有機JAS認証取得に向けた取り組みを始めた。
パソナの南部靖之代表は開設当時、「農業は地方の基幹産業で、流通や加工などさまざまな産業と結びついている。その農業が活性化することで周辺産業も含め地方に雇用が生まれる」と考え、新規就農者支援事業を始めた。
運営する「パソナ農援隊」の紙上忠之チャレンジファーム事業部長は「若者に独立できる力をつける、最長3年間のいわばインキュベーション施設だ。農業でも周辺産業でもいいのでベンチャー企業として活躍してほしい」と指導に力を入れる。独立就農者は島内に7人、島外に5人いるほか、雇用就農者は3人となった。
3年の契約社員を経てパソナ農援隊の社員としてチャレンジファームでタマネギを生産する渚篤氏は工業高校を卒業して電機メーカーに勤めた後、「外で働く方が向いている」と農業の世界に入った。紙上氏は「タマネギは自信作で関西のスーパー店頭で売られている。お客さまから認められた証拠」と評価する。
隣接地に一風変わった家が現れた。淡路島の土を詰めた土嚢(どのう)を家の形状に積み上げた「アースバッグハウス」といわれる建物で、“農”を通じた持続可能な社会の実現を目指す社内ベンチャー「タネノチカラ」が建てた。金子大輔社長をはじめ4人の創業(18年11月)メンバーが東京から移住し、「循環」「サステナブル」をキーワードに耕作放棄地を再生。化学肥料や農薬を使わず、自然の生態系を重んじる「農業ではなく農」(金子氏)に挑む。というのは「化学肥料を使うと微生物がいなくなり、土が死ぬ。すると野菜などが育たなくなる」からで「土を生き返らせることから始める。農業未経験者で固定概念がないから取り組める」と意気込む。
金子氏はパソナで、最先端IT技術を扱う企業に特化した紹介事業を行うチームを立ち上げた。しかし「持続可能で、安心して子供を育める社会を創りたい。今やるべきだ」と南部代表に直談判し、「食と健康」をテーマに事業に乗り出した。