しょうゆ造りを語らせれば止まらない笛木社長だが、実は「若い頃は家業を引き継ごうと思っていなかった」と振り返る。小学生時代、自宅に遊びに来た友人の「なんかお前んち、しょうゆ臭いな」という一言が胸に突き刺さり、一時は他の道を志そうと思ったこともあるという。
それでも、しょうゆ造りの道を選んだのは、米国留学中に現地の友人から届いた1通のメールがきっかけだった。その内容は、友人が地元スーパーで笛木醤油のしょうゆを見つけたというもので「日本の伝統的なしょうゆを守ることが、お前のミッションじゃないか」という言葉が最後につづられていた。このメールが自身のルーツを再認識させ、しょうゆに向き合うきっかけになったという。
大手と差別化
こうして引き継いだ家業だったが、厳しい現実が待ち構えていた。しょうゆの消費量は年々減少しており、大手メーカーとの熾烈(しれつ)な価格競争に巻き込まれ、廃業に追い込まれた同業他社は少なくない。こうした現状に対し、笛木社長は「大手と差別化を図り、消費者にもっと向き合わなければいけない」という危機感を抱いたという。実際、笛木醤油では伝統的な製造手法にこだわる一方、最近の消費者の健康志向に合わせて、「糖質50パーセントカット」や「減塩」といったヘルシー商品も他社に先駆けて販売している。