今春闘でトヨタ自動車は、労働組合の要求とは異なり、非正規を含む全組合員という枠組みで回答した。賃金水準を底上げするベースアップ(ベア)の具体額を公表しないことなど異例の対応だった。相場形成の役割を官民から期待されるトヨタだが、本社とグループ会社、正社員と期間従業員らの格差是正を優先した格好。経営側は来年以降も同じ手法を続けたい考えで、牽引(けんいん)役不在となる懸念の一方、「正社員のベア」だけに関心が集まる現在の春闘の在り方を変える可能性も秘めている。
トヨタの回答は「正社員以外を含む全組合員の昇給で月額1万1700円」。定期昇給分、手当も含まれている。愛知県豊田市で14日に会見した上田達郎専務役員は「定年後再雇用者、期間従業員の方々に厚めに配分する」と説明した。非公表の背景には「トヨタを見て自社の回答を決めるという慣習が、各社の労使の真剣な話し合いを阻害している」(豊田章男社長)という問題意識がある。少しずつ変わってきたが、グループ各社はトヨタより低い水準のベアで妥結することが多い。
安倍晋三首相は1月の施政方針演説で、技術革新の成功事例としてトヨタグループの創始者、豊田佐吉氏の名前を出した後、賃上げ税制の話に移った。トヨタ内には、春闘での期待の表明と受け取る向きもあった。