優れた経営者は問題に直面したとき、「横の具体に飛ぶ」のではなく「具体を抽象化する」ことで、自分の原理原則を磨き上げ、そこで培った原理原則を別の具体に適応していくのです。そして、柳井さんのような経営者は、この具体→抽象→具体という往復運動を、あたかも呼吸をするかのようにごく自然に繰り返しています。だから問題解決の手法はその都度違うようにみえても、その背後にある原理原則は決してぶれることがないため、掘り下げていくといつも同じ答えになるわけです。
経営者を育てる標準的な方法はない
この「具体と抽象の往復運動」を行ううえで、『経営者になるためのノート』は素晴らしい教材です。FRの歴史という「文脈」の中に経営の原理原則が置かれているため、とてもわかりやすい。
たとえば第2章「儲ける力」の第4項「現場・現物・現実」の中に、「指示をして仕事が終わりではない」という言葉が出てきます。これは柳井さんの原理原則のひとつですが、これだけでは「そうですね」で終わってしまう。ところがこのノートには以下のような文章が続くのです。
ユニクロがフリースに挑戦し始めた当初、さまざまなトラブルが続発した。担当者に理由を質すと「中国の工場には電話で何度も指示を出しているのですが……」という返事。そこで柳井さんは「指示をして仕事が終わりではない」と担当者に言った。「中国の工場はパートナーなのだから、直接現地に行って、現物を前にして一緒に問題解決をしないとだめなのではないか」--。
このように、原理原則を文脈の中に置いてみると、抽象度の高い原理原則も、生き生きとした実感を持って理解できるようになります。