クラフトビールに参入した伊勢角屋麦酒を襲った経営難。鈴木成宗社長(49歳)のリーダーシップで乗り切り、今では国内外の審査会で賞を総ナメにしているが、社長を支える男女2人の「ビール職人」の存在も忘れてはならない。何から何まで“正反対”だが自身の仕事に妥協を許さぬペアのケミストリーが、同社のビールを世界最高レベルまで引き上げた。そして2人の足取りにはビールに負けないほど(?)濃厚なドラマがあった。一方、順調に進んでいた“酒豪女子”のコラボビール造りは思わぬ緊急事態に…!?
▼前回の話(4):売ってはいけないレベル… 地ビールブーム崩壊の裏側 どん底まで落ちた社長を救った人物
本場に「殴り込み」 道を開いた豪胆な社長の「同級生」
「社長が『大会に出したビール、賞取れる自信あるか?』って毎日うるさく聞いてくるから、黙らせたくて『取れる。アメリカの会場まで行きましょう』って言った。そしたらかえって『行くか!』って言い出しちゃって、行ったらほんまに受賞してしまった」。3代目ヘッドブルワーの出口善一さん(50歳)は、2016年5月にアメリカで開催された「ワールドビアカップ」での銅賞受賞を熱く回想する。
2年に1度開催されているこの大会は、“ビールのオリンピック”の異名を取る世界で最も権威ある審査会だ。伊勢角屋麦酒が出品した「ゴールデンドラゴン」は、アルコール度数が低く飽きずに飲み続けられるのが特徴。近年のアメリカで流行しているビアスタイルのため、ある意味「本場に殴り込み」の出品だった。「アメリカの大会で、そこでたくさん造られているスタイルで、おまけに現地のブルワリーは新鮮なまま出せる。そんな条件の中で受賞できたから嬉しかったですよ」(出口ブルワー)。
「クリエイティブな芸術家肌」と信頼を寄せる鈴木社長と出口ブルワーはもともと同級生だった。以前は木材関係の職に就いていたが、やりがいや刺激がなく嫌気がさしていた。地元で顔が広かった鈴木社長に相談していたところ「じゃあうちに来る?」と誘いを受け、「使い物にならんかったら切ってくれてええから」と腹をくくり、今年で入社8年目となる。