訪日外国人の増加でホテル不足となる中、一般住宅やマンションの空き部屋などに観光客らを有料で宿泊させる「民泊」が広がっている。近隣住民とのトラブルを避けるため民泊を禁止する動きがある一方、国家戦略特区の規制緩和を用いた全国初の事業として東京都大田区で民泊を認める条例が施行され、民間企業がリゾート地・沖縄のマンションの空き部屋活用した事業を展開するなど積極的に取り組むところも出ている。
首都圏で大雪の恐れがあった1月末、寒さを逃れるため沖縄県へと“避難”した。大京穴吹不動産(東京都渋谷区)が、かりゆし(那覇市)と業務提携して2015年3月から始めている空き家活用事業「旅家(たびいえ)」を利用し、通常のホテル宿泊との相違などを体験する目的だった。
那覇空港に正午頃に到着。気温20度、温かい。宿泊するリゾートマンション「アルトゥーレ美浜」のある北谷町(ちゃたんちょう)にタクシーで向かう。40分ほどで着いた。漁港近くに建つ19階建て421戸の大型リゾートマンションで、同社は4部屋の運用を任されているという。
エントランスはオートロック、コンシェルジュデスクがあり、部屋の鍵を使わないとエレベーターに乗れないなどセキュリティがしっかりしている。着いて早々フロントで宿泊カードに記入する代わりに、宿泊する部屋で賃貸借契約を結ぶことになった。
定期建物賃貸借契約書、入居届、誓約書など6種類の書類に住所、氏名を記入。通常の賃貸借契約と同じ手続きが行われる。禁止事項やゴミの出し方の説明を受けた後、近隣のショッピング施設や娯楽施設を紹介してくれた。手続きは30分もかからずに終了した。
リビングダイニングキッチンと寝室が2つ。ダブルとシングルのベッドが置かれている。大型冷蔵庫、洗濯機、電子レンジなど家電、家具、アメニティは完備。リゾートホテルのようなエントランスホールをはじめとして共有スペースも贅沢だ。
旅館業法に抵触しないようにするため、賃貸借の期間は1カ月以上にすることが必要。今回は体験宿泊のため、契約期間は2日間だが、本来は1部屋1カ月26万円の家賃がかかる。1部屋は最大4名宿泊可能なため、1泊1人あたりの価格としては決して高いものではないだろう。
古酒工場を見学、夜はマンションで食事
1泊2日ほどの滞在だが、せっかく沖縄を訪れたのだからと古酒(クース)の工場見学に出掛けることにした。地域密着型の旅行会社「やんばる日和」の日帰りプランを利用し、タクシーで1時間半ほどかけて、本部町にある1946年創業の山川酒造に向かった。
原料米の洗米・蒸米、黒麹を繁殖させる三角棚、麹に仕込み水と泡盛酵母を加えて発酵させるモロミ室、大きな蒸留機、一升瓶2万本分入るという高さ7メートルのタンクがたくさん並んだ蔵―。増築を重ねた工場内は段差が多く迷宮のようだ。
甕で3年以上寝かせた泡盛を古酒と呼ぶそうだ。案内してくれた山川宗克社長は「戦争で割れてしまって100年以上の古酒はほとんど残っていません。うちで一番古いのが49年目になる」と話す。検定用の地下タンクから掬った作り立ての泡盛を飲ませてもらう。刺激の強い若々しい味が口の中に広がった。