ただ各メーカーの本社経費や広告宣伝費などの間接費は、工務店や設計事務所に比べて高いだろうし、構造躯体(くたい)の基本性能もメーカーごとに違いがある。坪単価が同じ100万円超であっても単純に比較するわけにはいかない。
1980年代から釘などの金物を使わない伝統構法で家づくりに取り組む設計集団「住まい塾」の住宅を「富裕層向けの高級ブランド」と記事に書いて建築家で代表の高橋修一氏に叱られたことがある。「豊かな空間を太い柱と梁(はり)など確かな骨組みでつくろうとしているだけで、高級住宅をつくっているわけではない。予算内でできるだけ良い家にするためにローコスト化にも取り組んでいる」と。結果的に坪単価100万円超でも金額だけを見て「高級」と決めつけないでほしいというのだが、そのクオリティーの高さには圧倒される。
先月、建築家の山下保博氏(九州大学客員教授)のアトリエ・天工人が建てた個人住宅を見学した。「コンクリートで内外部を包み込み、挑戦的かつ環境的な住宅」との建築主の要望に応えて、山下氏は火砕流堆積物「シラス」を骨材に使用した鉄筋コンクリート打ち放しで、地上3階地下1階、建築面積10坪弱の狭小住宅を3年かけてつくった。室内建具の塗装には柿渋などの自然素材を使い、ドアノブや手すりなどの金物は工芸作家に依頼した特注。一見して高級住宅のイメージではないが、坪単価は180万円だ。