関西電力が18日までに再値上げの意向を政府に打診したのは、原発停止に伴う財務悪化に歯止めがかからないためだ。関電は平成27年3月期の業績予想を開示していない。だが、原発の停止が続けば燃料費の増加などで収支が約1230億円悪化する、との試算もあり、4年連続の最終赤字も現実味を帯びる。電力各社の財務は危機的な状況にあり、早期の原発再稼働がなければ、再値上げは避けられない状況だ。
赤字の続く関電は「聖域なき経営効率化を進める」(八木誠社長)とし、再値上げの回避を検討してきた。ただ、人件費の圧縮や資産売却などのコスト削減には限界がある。26年4~6月期の連結最終損益も290億円の赤字となり、黒字転換への道筋は描けていない。
市場関係者の間では「このまま26年度も最終赤字になれば、繰り延べ税金資産の計上は難しくなる」と、さらなる財務悪化を指摘する声も少なくない。
繰り延べ税金資産は支払った税金が将来戻ってくることを見込んで計上する会計上の資産だ。しかし将来の黒字が見込めないと計上できない。将来の利益が見通せない場合は、既に計上した繰り延べ税金資産を取り崩す必要があり、自己資本を毀(き)損(そん)することになる。
関電が26年度も赤字となり、繰り延べ税金資産の計上が認められない場合、財務の健全性を示す自己資本比率が6月末の15・2%から、“危険水域”とされる1桁台に落ち込む恐れがある。
東日本大震災前の22年度をみると、発受電電力量に占める原発比率は関電と北海道電力が44%と最も高く、両電力とも原発停止に伴う業績悪化が深刻だ。
関電に先立ち再値上げを申請した北海道電の6月末の自己資本比率は8・5%と、すでに10%を割り込み、借金が資産を上回る「債務超過」に陥る危険性が指摘されている。また、九州電力も6月末時点の自己資本比率が9・6%と、危険水域とされる1桁台になった。
危機的な財務状況が続けば、電力各社は銀行からの借り入れなど資金調達が難しくなる恐れがある。資金繰りが悪化すれば、安全対策を含めた設備投資の遅れや人件費の過剰な圧縮を招き、電力の安定供給にも支障が出る懸念がある。
原発再稼働が見通せないなか財務状況を改善する手立ては乏しく、今後、各社が再値上げに向け本格的な検討に入る公算が大きい。第一生命経済研究所の試算によると、電力料金が20%引き上げられた場合、3年後の国内総生産(GDP)を6・2兆円押し下げるという。原発再稼働の遅れは、日本経済をもむしばみつつある。