生き残りへ戦略
日本では今年に入って、新日鉄住金が君津製鉄所(千葉県君津市)で、神戸製鋼所が神戸製鉄所(神戸市)で高炉の休止をそれぞれ発表するなど、本格的な生産調整に入り、需給改善に向け一定の成果を挙げた。しかし東アジアでは、中国の過剰供給により国際市況は軟調に推移している。
日本の鉄鋼各社は、高張力鋼板(ハイテン)など、中国の鉄鋼業界にはまねのできない高い技術に裏打ちされた製品を主力にしているものの、「国際市況が下がれば、価格交渉で引き下げ圧力の材料になる」(五百旗頭氏)のが実情だ。
鉄鋼大手幹部は「原料価格がオープンになったとはいえ、価格交渉に最も大きな影響を与えるのは需給バランス。現在の中国の生産水準が続く限り、当社は競争力強化に向け設備投資を行うための利益さえ確保できない」と嘆く。
五百旗頭氏は国内鉄鋼業界が置かれている経営環境について「今年度の業績は円安効果にも支えられ回復しているものの、来年度以降は楽観できない。供給過剰問題は解消の見通しが立たず、本質的な需要回復も期待できないからだ」と解説。この上で「生き残りには各社それぞれの戦略が重要となる」との見方を示した。
前出の鉄鋼大手幹部も「中国の問題は3年や5年で解決するものではない。その状況の中でいろいろな経営判断をしていく覚悟が必要だ」と話す。経営陣の手腕が会社の命運を左右する時期に来ている。(兼松康)