(中)ゆうちょ銀・かんぽ生命、道半ばの運用改革 収益重視へ意識向上がカギ
郵政の苦闘 民営化10年■金融2社運用高度化も市況悪化懸念
「お客さまのためになりますから」「当行らしいサービスなので」…
2015年6月にゆうちょ銀行に招聘(しょうへい)された佐護勝紀副社長は、行内で不思議な感覚を覚えたという。新事業のアイデアなどの説明を受けると、黒字化の目途が最初から立っていなかったり、希望的観測に基づいていたりすることが目立つのだ。官業を源流とする金融機関特有の「収益に対するこだわりの希薄さ」がそこにあった。
「まるで正反対だ」。時に「グリード(強欲)」と批判される投資銀行業界で働いてきた佐護氏。短期的な収益を求めることの弊害も知り尽くしているが、ゆうちょ銀の場合は、民間企業として、収益性を重視することへの意識改革が必要だと感じた。
米ゴールドマン・サックス日本法人の副社長などを歴任した佐護氏は、金融庁の森信親監督局長(現金融庁長官)に、ゆうちょ銀を紹介されたのが縁になった。数カ月考えた後、入行を決めたのは200兆円超の運用資産に携わるやりがいと、上場を目前に控えたゆうちょ銀の「変革への意欲」があったという。
◇
地銀とファンド設立など連携強化
日本郵政グループの稼ぎ頭であるゆうちょ銀。融資などはできない同行にとって、運用は収益の柱だ。しかし、超低金利というかつてない“逆風”が吹き荒れている。最悪の環境でも利益を上げられるように運用の高度化・多様化を進めることが、佐護氏に与えられた任務だった。
優秀なスタッフを集め、資産構成を見直す中で、株や債券などの従来型ではない「オルタナティブ投資」に注力。未公開株や不動産、ヘッジファンドなどへの投資で、今年6月末で6872億円のところ7年程度をかけて6兆円くらいに増やす目標だ。
3月末の有価証券の含み益は、1年前から2117億円増えた。親会社、日本郵政の長門正貢社長は「期待通りの成果を挙げてくれた」と評価する。
変わってきたのは、運用部門だけではない。26日には新宿郵便局(東京都新宿区)の一角に「銀行手続の窓口」が登場した。地方銀行25行の住所変更やカード再発行などの手続きが1カ所でできる。転勤などで地方から東京に出てきた利用者を想定している。
地銀は、国の信用力を背景に貯金を集めてきた郵便貯金事業時代から、ゆうちょ銀とは対立してきた経緯がある。この窓口はあくまで日本郵便との連携だが、日本郵政グループとの“蜜月”を象徴する。窓口を運営する日本ATMの竹田茂取締役上席執行役員は「各行に声をかけると、『郵便局に置くのか』と驚かれた」と話す。
昨年4月、ゆうちょ銀の社長に横浜銀行出身の池田憲人氏が就任。共同でファンドを立ち上げるなど、地銀との連携強化に乗り出した。窓口に関しても、宮崎県の郵便局の一角に宮崎銀行の現金自動預払機(ATM)コーナーを設置した。
一方のかんぽ生命保険も、運用環境が厳しいのは同じだ。植平光彦社長は、「外国債券などを買っていく。許容度の範囲内でリスクの高い資産にも投資していきたい」と話す。
グループの業績の牽引(けんいん)役としての期待が大きい金融2社だが、いずれも17年3月期まで、経常利益は2年連続の減益と、逆風を十分にははね返せていない。佐護副社長は「運用改革を進めても、最悪の外部環境にのみ込まれてしまう懸念もある。また、オルタナティブ投資が本格的に利益貢献するまでは、7~10年かかるだろう」と話す。行員の意識と同じで、運用改革も一朝一夕ではならず、「変革への意欲」を持ち続けることが必要とされている。
■(上)郵政民営化10年 聖域の郵便局、収益改善の足かせに を読む
関連記事