東芝再建の道は依然不透明 WDとの蜜月崩壊、社内対立も根深く
東芝が半導体子会社「東芝メモリ」の売却先を合弁相手の米ウエスタン・デジタル(WD)陣営に絞り込み、半年にわたった迷走劇はようやく決着する見通しとなった。だがWDとは訴訟合戦になるなど泥仕合が続き、蜜月関係は崩壊。東芝社内も経営路線をめぐる対立が根深く残り、再建が軌道に乗るかは依然予断を許さない状況だ。
急速に歩み寄り
「WDと月末までに契約したい」。24日、東芝本社で開かれた会議で綱川智社長は明言した。居並ぶ取締役から異論は出ず、WD陣営への売却方針が事実上決まった。
両社は8月中旬、WDのスティーブ・ミリガン最高経営責任者(CEO)が綱川氏に、提訴という荒っぽい手段を取ったことをわび、急速に歩み寄った。
東芝は3日、三重県四日市市の工場で建設中の第6棟の新規投資からWDを排除する方針を表明。東芝の単独事業となった場合、WDは最先端のフラッシュメモリーの供給を受けられなくなり、製品面でピンチとなる。
過去の投資の減損処理で巨額損失の計上も迫られかねず、「武闘派」のミリガン氏もさすがに焦ったか、態度を軟化させた。東芝関係者は「排除表明がボディーブローのように効いた」と話す。
東芝は6月下旬、韓国SKハイニックスを含む「日米韓連合」と優先交渉に入った。経済産業省の意向が強く働き、いったんは流れができた。
だが合弁相手のWDは、競合するSKが入る日米韓連合を容認せず猛反発し、係争が激化。東芝社内でも、東芝メモリ社長を兼務する成毛康雄副社長らが反WDに回り、意見対立が深刻化した。8月中旬ごろには売却を諦め新規株式公開(IPO)を目指す「プランB」まで浮上した。
「やれるものならやってみろ」。もたつく東芝経営陣に主要取引銀行はいらだち、綱川氏に厳しく詰め寄った。再建支援は、来年3月末までに売却を完了し、その利益で上場廃止の回避に不可欠な債務超過を解消することが前提。時間がない。
綱川氏は「(成毛氏らを)必ず説得する」と約束し、WDを入れた枠組みにかじを切った。米ファンドなどから「余計な口出しをしてかき回している」と批判が噴出した経産省は途中から「東芝が自分の判断で交渉すること」(世耕弘成経産相)とトーンダウンした。
独禁法の壁
東芝メモリが手掛けるフラッシュメモリーは、東芝の技術者だった東北大の舛岡富士雄名誉教授(74)が開発した。当時社内で評価されず、韓国サムスン電子に技術供与して日の目を見た経緯がある。
英IHSマークイットによると、昨年のフラッシュメモリーの市場規模は約4兆円。サムスンが35%超のシェアを押さえ首位を独走中で、東芝は2位に付けるものの20%弱と引き離されている。開発した舛岡氏も「いまさら技術流出を問題にすること自体ナンセンスだ」と話す。
東芝は最大のヤマを越えたとはいえ独禁法の壁が立ちはだかる。特に中国は国策としてフラッシュメモリー開発を強化しており、この分野に詳しい弁護士は「恣意(しい)的な審査が行われ長期化する恐れがある」と指摘する。
買収参画がかなわなかったSKも不気味だ。東芝社内では「韓国での審査に横やりを入れてくるのではないか」と警戒感が広がる。期限内に売却は間に合うか。東芝の黄信号はついたままだ。
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