“お荷物”神戸空港の教訓… 関西3空港、今や首都圏に対抗できる最大のインフラに

視点
来春から民間運営となる神戸空港

 □産経新聞論説委員・鹿間孝一

 神戸の街は背後に六甲山系が迫り、東西に細長くて狭い。かつて山を削ってニュータウンを開発し、その土をベルトコンベヤーで運んで沖合を埋め立て、人工島・ポートアイランドを造成した。

 一石二鳥の手法は「山、海へ行く」のキャッチフレーズで有名になった。

 民間企業のように柔軟な発想で利潤を追求する姿勢は、自治体経営のお手本とされ、「株式会社神戸市」の異名を取ったが、これは誤算だった。

 神戸空港である。

 そもそもボタンの掛け違いがあった。

 騒音問題で大阪(伊丹)空港の移転が論議された時、神戸沖も有力候補になったが、地元の反対で実現せず、泉州沖に関西国際空港が建設された。

 ところが、1995年に阪神大震災が起き、神戸市は復興事業の目玉として、さらに防災の拠点として神戸空港の計画を打ち出した。

 大阪府や経済界が反発したのも当然だろう。オール関西で取り組むべき新空港を一旦は断っておきながら、震災という未曽有の災害があったとはいえ、地域の事情で空港を建設するという。25キロ圏内に近接する3つの空港は明らかに多く、共倒れになりかねない。

 そのため国や自治体、経済界でつくる「関西3空港懇談会」は、神戸空港に厳しい規制を設けた。

 24時間運用可能な海上空港でありながら、離着陸は午前7時から午後10時までとし、国際線は就航できず、国内線のみ1日往復30便に制限された。

 アジアのハブ空港と期待されて開港したものの、利用が低迷していた関空に配慮したのである。

 神戸空港は2006年に開港したが、利用者数は翌年の297万人をピークに伸び悩み、その後は年間300万人を見込んだ神戸市の需要予測の6割程度にとどまった。

 3000億円以上を投じた総事業費の償却ができず、負債が膨らむ一方の事態に、神戸市はついに滑走路やターミナル施設などの運営権売却に踏み切った。

 6月末に締め切られた入札に応募したのは、関空と伊丹の両空港を運営する関西エアポートとオリックス、仏バンシ・エアポートの3社連合だけだった。

 価格は42年間で約190億円とされる。神戸市が設定した最低基準価格を1割ほど上回るが、安い買い物といえよう。神戸市にとってももくろみ通りの相手だ。

 関西エアポートが3空港を一体運営することになれば、神戸空港の足かせになっていた規制が緩和される可能性が高い。

 関空は格安航空会社(LCC)が相次いで就航し、インバウンド(訪日外国人客)の増加で絶好調である。

 昨年度の利用者数は初めて2500万人を突破し、LCC用のターミナルを増設したが、このままに右肩上がりで推移すると、いずれ飽和状態になりかねない。補完するために神戸空港への国際線乗り入れも考えられる。

 インバウンド景気に沸く大阪や京都に比べ、神戸はやや取り残された格好だが、神戸空港が玄関口になれば、外国人観光客でにぎわうだろう。地元経済への波及効果も大きい。赤字続きの“お荷物”が、金の卵を産む“お宝”になるかもしれない。

 なにより「多すぎる」と言われた関西の3空港は、今や首都圏に対抗できる最大のインフラである。

 国立民族学博物館の初代館長だった故梅棹忠夫さんの言葉を思い出す。

 梅棹さんは大型コンピューターを導入して、収集した民族資料の管理や研究に生かそうと考えたが、周囲は大反対だった。人文系の学問なのに、何のために使うのか、誰が使えるのか…。

 梅棹さんはこう反論した。

 「供給してみい、需要が出てくる。コンピューターはそろばんと鉛筆や。目の前にあったら、誰でも使うようになる」

 その通りになった。

 無駄かと思われた投資が将来に生きる。インフラとは、そういうものかもしれない。