離れた場所にいる役者が共演 CGキャラがリアルタイムで観客に反応 テクノロジーが変えるライブエンターテインメント
伝統の歌舞伎や和太鼓が、最先端のボーカロイドと融合した舞台が話題となり、CGでありながら、リアルタイムで観客とコミュニケーションをとるアイドルたちが登場するステージに、女性ファンが歓声をあげる。テクノロジーの進歩が、ライブエンターテインメントの世界に新しい波を起こしている。
幕が上がって繰り広げられる歌舞伎の舞台。歌舞伎俳優の中村獅童さんが演じる八重垣紋三と、澤村國矢さん演じる蔭山新右衛門が、ボーカロイドの初音ミクによって演じられる花魁の傾城初音太夫をめぐって争う物語の先で、舞台の左右に分かれて立った紋三と新右衛門の姿が、近寄った形で舞台の奥にあるスクリーンに投映され、立ち回りを演じてみせる。
4月29日と30日に、千葉市美浜区の幕張メッセで開催されたニコニコ超会議2017のプログラムのひとつ、超歌舞伎 「花街詞合鏡(くるわことばあわせかがみ)」のクライマックスシーン。演じる歌舞伎俳優をカメラで撮影し、スクリーンにリアルタイムで投映する、NTTのイマーシブテレプレゼンス技術Kirari!を使って、離れた場所に立つ2人の歌舞伎俳優を“共演”させた。
最先端のテクノロジーと日本の伝統芸の融合を見せようと、昨年のニコニコ超会議2016で「今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)」として初演された超歌舞伎。ボーカロイドの初音ミクと歌舞伎俳優の中村獅童さんが言葉を交わし、3DCGで描画された初音ミクが生身の中村獅童さんと絡む舞台が評判となり、第22回AMD Award’16でグランプリにあたる大賞/総務大臣賞を受賞した。
2回目となる今回の超歌舞伎2017では、遊郭を舞台にした新作「花街詞合鏡」に演目がかわり、花魁の衣装をまとった初音ミクの優雅な踊りが披露され、CGによる描画力の向上が示された。同時に、昨年の「今昔饗宴千本桜」でも使われた、人物を離れた場所に登場させるKirari!の技術も向上が図られ、背後にセットや人物がいる場所でも、目当ての人物だけを切り抜いて伝送することが可能になった。
舞台の左右に分かれて立つ紋三と新右衛門が、それぞれカメラで撮影されて伝送され、同じスクリーンの上に接近した形で登場する。離れた場所で2人が手足を動かすと、スクリーンの上では戦っているように見える。去年に引き続き出演した、中村獅童さんと澤村國矢さんの息の合った演技と、NTTの技術が重なり生まれた驚きのシーン。いずれ世界の各地でカメラの前に立った役者たちが、同じ舞台の上で共演する時代が来るかもしれない。
新右衛門の手下たちが、手に光る剣を持って戦うSF映画のような場面もあれば、おおぜいでハシゴを支えて、その上を紋三が駆け上がり、ステージの上段へと移るような力技も見せるなど、演出面でも最先端と古典の融合が見られた。最終公演では、中村獅童さんら出演者たちが舞台の下に降り、観客の間を走り回って大喝采を浴びた。歌舞伎という古典に若い層の関心を呼び込んだ超歌舞伎。来年はどれだけの技術の進歩が見られ、驚きの演出が繰り広げられるかに、今から注目が集まっている。
この超歌舞伎を技術面でサポートしたNTTは、ニコニコ超会議2017にも、「NTT超未来研究所 episode4」というブースを出展して、最新の技術をエンターテインメント風にして見せていた。そのひとつが「すごい立体映像を投映してみる」技術。前から13台、後から13台のプロジェクターで平面のディスプレイに映像を立体的に投映するもので、前に立った人が左右に移動すると、投映されている人物の見える角度が変化する。
ステージなどで正面以外の場所から見た場合、生身の役者は顔の側面が見えても、平面に投映されたキャラクターはそうは見えない。この技術なら、CGのキャラクターにも生身のような立体感を与えられる。超歌舞伎で使われたKirari!と組み合わせれば、より臨場感のある中継も可能になりそうだ。
生身ではないが、実在しているようなキャラクターたちが歌って躍るライブエンターテインメントには、ユークス(堺市堺区)が手掛けるAR perfomersがある。シンジ、レイジとダイヤによるレベルクロス、レオンといったCGによって描写されたキャラクターたちがスクリーンに投映される形で登場し、歌や踊りといったパフォーマンスを繰り広げる。
このAR perfomersがユニークなのは、観客のコメントやリアクションにCGのキャラクターがリアルタムで反応すること。今年1月に江東区有明で開催されたファーストライブでは、会場から募った質問のその場で答えて実在感を強くアピールしていた。ダンスや身振りなどの動きをその場でコンピューターに読み込ませ、キャラクターたちに伝えるパフォーマーがいて、展開に合わせて声をあてる声優もいて成り立つリアルタイムのコミュニケーション。あらかじめ決められているキャラクターの演技に俳優が合わせる超歌舞伎より、自由なステージを作り出せる。
ユークスではファーストライブの好評を受け、7月22日と23日に、前回と同じデファ有明で第2回となるライブ「ARP 2nd A’LIVE」を開催する。シンジ、レベルクロス、レオンは今春、エイベックスとアーティスト契約を結んでCDをリリースした。バーチャルなキャラクターながらもリアルな存在として認められた格好。半年ぶりとなるライブでは、毎回確実に進化している技術力と、よりプロ意識が高まったメンバーによって、前回を超えるパフォーマンスが見られそうだ。
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