迷走する日本郵便… 楽観的なはがき値上げ、高齢者向けサービスにも疑問

視点
東京・霞が関の日本郵政本社

 □産経新聞編集委員・福島徳

 新年度に入って、生活関連品の値上げが相次いでいる。家庭用オリーブオイルや一部の紙巻きたばこの価格が引き上げられ、さらにはバターなどの乳製品、ティッシュペーパーなどの家庭用紙製品も順次、値上げされる。

 ところが、郵便はがきが値上げされることは意外と知られていない。その理由の一つは、日本郵便が値上げを発表したのが、政府が2017年度予算案を決定したのと同じ昨年12月22日だったからだろう。

 それはさておき、値上げは6月1日から実施され、通常はがきは10円値上げされ62円になる。定形外郵便物や、ゆうメールは新たに規格を設け、それに収まらないものを最大150円値上げする。消費税増税時を除けば郵便料金の値上げは実に23年ぶりになる。ちなみに年賀はがきだけは52円に据え置く。

 日本郵便によると16年3月期は、はがきに限ると294億円の赤字だったが、このままでは18年3月期に郵便事業全体が赤字転落する見通しだという。日本郵便では今回の値上げに伴い、通常はがきの差し出し数が年間約2億通減る一方、年300億円程度の増益効果があると予測する。

 だが、この見通しはいささか楽観的過ぎる気がする。はがきの取扱量は02年の78.1億通をピークに、15年度には63.2億通にまで減少した。ただでさえ、はがき離れが進むなか、値上げが一層の拍車をかけることも懸念される。

 また、年賀はがきと通常はがきで料金が異なってしまうことも看過できない。これまでは年賀はがきが余っても、いつでも使える安心感があった。だが、今回の値上げで年賀はがきの買い控えも起こりうるのではないか。

 19年10月に予定される消費税率引き上げの際には、郵便は再値上げの方針とも言われており、値上げと“はがき離れ”の負のスパイラルも懸念される。

 ただ、日本郵便の事業で、それ以上に首をかしげざるを得ないのが高齢者向けの「みまもりサービス」だ。日本郵便では16年度中のサービス開始を目指していたが、新年度になってもスタートのめどがたっていない。事業化が遅れている直接の原因は、高齢者に持たせるタブレット端末を調達するIBMと調達条件などで折り合いがつかないことなどが理由だという。そもそも高齢者にタブレット端末を持たせるというビジネスモデルに違和感を覚える。

 この「みまもりサービス」の原型は国営時代に郵便配達員が高齢者宅で雑談をして無事を確認していたものだ。雑談というが、当時は郵政三事業一体で、配達員は貯金や保険を直接扱っていた。お金の出し入れを通じて健康状態や生活の変化にも気づいただろう。

 だが、民営化により、郵便局長や配達員が出先で貯金や保険を直接扱うことはできなくなった。分社化の影響もあって地域とのつながりも希薄になったとも聞く。何より、ビジネスとなれば求められるモノも違ってくる。本当に高齢者が緊急時にうまくタブレット端末を操作できるかも疑問だ。

 事実、実証実験をしていた山梨県や長崎県の郵便局関係者からは「サービスを有料化したら利用者の多くが離れるのではないか」と否定的な声が上がっていた。

 日本郵政の長門正貢社長も記者会見で「お年寄りから多額のお金をもらうわけにはいかないし、人手がもっと必要になる」と苦しい胸の内を吐露している。

 そもそも国策の実現のために過疎地も含めて郵便局を全国に展開し、1枚52円の一律料金で全国津々浦々にはがきを届けているサービスでは郵便事業が赤字体質なのはやむを得ない側面がある。だから、米国ですら郵便は国営事業だ。日本郵便はいまなお、ユニバーサルサービス義務をはじめ、多くの公的役割を担っている。その一方で、上場企業の日本郵政の完全子会社として収益性も求められている。

 買収した豪トールの帰趨(きすう)も含めて、日本郵便はもがき、迷走を続けている。経営陣の責任を問うことは簡単だが、問題の本質は郵政民営化の際の制度設計そのものにあることを忘れてはならない。