客の「滞在時間」が長くてもコメダが儲かる“意外な仕組み”

提供:PRESIDENT Online

 コメダ珈琲店の店内は旧国鉄の座席を思わせる「間仕切り席」が多いのが特徴です。日中に店内をのぞくと、ビジネスパーソンが打ち合せをしていたり、モバイル機器で1人作業していたり、ママ友と思われる人たちが談笑していたり、さまざまな使い方をされています。

 コメダのように、店員が注文を取りにきて飲食も運んでくれる「フルサービス型」(と呼ばれる業態)は、お客自身がカウンターで注文して飲食も自ら運ぶ「セルフ型」に比べて、来店客が長居をする傾向があります。セルフカフェよりフルサービスの方が居心地は優れているからです。コメダの平均滞在時間は約1時間、セルフカフェのドトールコーヒーショップは同約30分ともいわれています。

 イスの固さで「客席回転率」を上げる店

 飲食業界には「客席回転率」という言葉があります。普通は「来店客数÷座席数」で表します。座席数60席の店に、1日300人のお客さんが来たら「300÷60=5」で5回転。率といいながら回転数で示します。

 一般的に、レストランや居酒屋に比べて客単価の低いカフェ・喫茶店が売上を伸ばすには、次の4つの方法があります。

 (1)客席回転率を上げる

 (2)店内の商品をテイクアウトできるようにする(二期作型)

 (3)単価の高いメニューを開発する

 (4)昼と夜とで店の業態を変える(二毛作型)

 たとえばコーヒー1杯200円台のセルフカフェが売り上げを伸ばすためには、回転率を上げるために短時間で出てもらう仕組みも大切。そんな仕組みの1つがイスの固さです。総じてセルフカフェの座席は、長時間いるとお尻が痛くなる思いがしませんか。

 また、お客さんがドリンクを店内で飲まずにテイクアウトすれば、座席提供しなくてすむので、その分、客席回転率は上がります。セルフカフェが得意なのは(1)と(2)です。

 ランチに力を入れる店の場合は、あらかじめ需要数を準備しておき、素早く提供します。人気店では後に並ぶお客さんの視線が気になって、食べたらすぐに退席する人が多い。この譲り合いの行為も、知らず知らずのうちに客席回転率アップに貢献しています。

 「滞在時間」が長くても儲かる理由

 これに対してコメダは、滞在時間が長くても客席回転率は高いのです。なぜでしょうか。

 「コメダは早朝から深夜までの長時間営業で、ランチタイム、ディナータイムという区分もありません。全時間帯にお客さんにお越しいただくビジネスモデルなのです」(営業部門を統括するコメダ専務・駒場雅志さん)

 つまり、コメダの強みは全時間帯での回転率の高さなのです。

 まず、多くの店で朝7時から11時まで続く人気のモーニングは、トーストにゆで卵などをサービスしても、慌ただしい平日の朝は、お客さんの滞在時間は他の時間帯に比べて短い。コメダ本部が入るビルの1階にある「コメダ珈琲店 葵店」(愛知県名古屋市東区)はモーニングの時間帯だけで4回転近くするといいます。

 コメダには特別なランチメニューも少なく、ランチタイムは他の競合店に比べて突出して強くないのですが、それでも来店客は途絶えません。午後のアイドルタイムや、カフェが苦手な夜の時間帯も比較的強い。長時間営業の全時間帯でまんべんなく客席が回転することで、平均滞在時間の長さという不利を補っているのです。

 近年は座席と座席の間が狭い店や、イスの固い店では落着けないと感じる人が増えました。筆者はメディアから取材を受けると「セルフカフェ疲れ」と説明してきましたが、少しぐらい飲食代が高くても自分の空間を確保したい。この思いは広がっているようです。

 高井尚之(たかい・なおゆき)

 経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

 1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。著書に『カフェと日本人』(講談社)、『「解」は己の中にあり』(同)、『セシルマクビー 感性の方程式』(日本実業出版社)、『なぜ「高くても売れる」のか』(文藝春秋)、『日本カフェ興亡記』(日本経済新聞出版社)、『花王「百年・愚直」のものづくり』(日経ビジネス人文庫)などがある。

 (経済ジャーナリスト 高井尚之=文)