宇宙開発に広がる民間参入 ANAとHISの資本参加、日本勢への追い風に
エイチ・アイ・エス(HIS)とANAホールディングス(HD)は、宇宙事業に本格参入する。両社は1日、宇宙旅行の事業化を目指す名古屋のベンチャー企業「PDエアロスペース」(名古屋市)との資本提携を発表。宇宙へのビジネス展開で欧米勢の後塵(こうじん)を拝してきた日本勢だが、航空大手と旅行大手が参画することは、後発の日本勢にとって追い風となる。
3社で民間主導による宇宙旅行や宇宙輸送の事業化を進めると発表した。宇宙船を完成し、2023年12月の商業運航開始を目指す。
PDエアロスペースは現在、世界初となるジェットエンジンとロケットエンジンを切り替えられる次世代エンジンと、航空機のように繰り返し使用できる船体を開発中。大気圏と宇宙空間の境界とされる高度100キロ以上に到達できる有人宇宙船にする計画だ。
出資額はHISが3000万円(出資比率は10.3%)、ANAが2040万円(同7.0%)。ANAは旅客機事業の知見を生かして宇宙船の運航を支援し、HISは宇宙旅行や宇宙輸送サービスの販売を担う。
1日、東京都内で記者会見したPDエアロスペースの緒川修治社長は「今よりもっと宇宙を身近な場所にするため挑戦を続けていく」と語った。HISの沢田秀雄会長兼社長は「一気に伸ばしていくには資金力が必要」と出資の意義を強調。ANAの片野坂真哉社長は「宇宙旅行の時代はすぐそこに来ている。緒川社長の夢を応援したい」と述べた。
宇宙ビジネスはかつて、膨大な開発費が不可欠で大手企業に有利だったが、近年は技術革新や製造コストの低下により、民間企業の活躍の場が広がってきた。
民間による小型衛星開発の先駆者的存在は、来年で会社設立から10年目を迎えるアクセルスペース(東京都千代田区)。新たに立ち上げたのが、人工衛星で得られたデータを外部に提供する「アクセルグローブ」プロジェクトだ。
具体的には多数の超小型衛星を同一軌道に打ち上げ、地上の様子を撮影。その画像から有用なデータを引き出し、農業や観光などさまざまな用途に活用する。来年までにまず3機、22年までに延べ50機を打ち上げる計画だ。中村友哉社長は「日常生活にも役立つようなソリューションを提案し、宇宙を身近な存在にしたい」と意気込む。
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■5兆円産業育成へ官民本格始動
ispace(アイスペース、東京都港区)は、ロボットによる世界初の月面探査レースに参戦する。米国の財団が主催する企画で、チーム「HAKUTO(ハクト)」を通じロボットの開発に取り組む。2017年にも炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の実機を月に送り込み、優勝を果たすことで存在感をアピールする考え。
ALE(エール、東京都港区)が18年に目指しているのは、人工流れ星の実現だ。17年の年明け早々にも、東北大大学院工学研究科と共同で流れ星のもととなる粒子を積んだ人工衛星の開発に着手。人工衛星から流れ星の粒子を放出する装置の開発も着々と進む。
人工衛星やロボットなどの開発は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が手掛けてきた。原則として宇宙用に認定された特注の部品しか使わないため、納期まで半年以上を要するケースもあり、コスト増の要因となっていた。しかし、民生品を活用しても一定水準の製品が完成するまで技術革新が進んだ。結果として開発費の削減につながりベンチャーが台頭している。
政府向けを中心に展開してきた日本では、年間の市場規模が3000億円程度と横ばいで推移している。こうした中、民間企業によるロケットや衛星の打ち上げを許可制にすることなどを柱とした宇宙活動法が11月9日に成立するなど、巻き返しに向けた動きが本格始動。政府は向こう10年間で5兆円規模の産業に育てることを目指す。
宇宙開発には、打ち上げ失敗リスクへの対処という課題があり、ビジネスモデルが確立されていない。世界最高水準の技術を持つ日本だが、発想力や挑戦力が欠けているとの指摘も根強いだけに、宇宙ベンチャーのさらなる活躍が見込まれる。(松村信仁、山沢義徳)
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