畳・皮革、内需型中小職人の技で海外へ
JAPAN style■本物志向で市場開拓
人口減少などにより国内市場が縮小していく中、畳店や小物雑貨など内需依存の中小・零細企業が海外市場に目を向け始めた。海外が認める高品質・高付加価値ブランド「メード・イン・ジャパン」に、手作りにこだわる熟練職人が創り出した本物志向が加われば、海外で受け入れられると判断したからだ。増加する訪日外国人客やインターネット環境の整備による電子商取引の拡大も追い風だ。
◆53カ国に出荷
6月21日、日本固有の文化といえる畳が東京・西日暮里の畳店からアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに向けて運び出された。新国立競技場の当初案をデザインしたザハ・ハディド氏が設計したオペラハウス内の日本料理店から急遽(きゅうきょ)、注文が入り製作した。
2代目の森田精一氏が代表を務める森田畳店には、海外から電話やインターネットを通じて頻繁に注文や問い合わせが入る。
輸出担当で3代目の隆志氏は「24日にはドイツの禅道場向けに特大畳を30枚送る。このほかにドイツとイタリアにも輸出する」とカレンダーを眺めながら指を折る。6月の輸出は4件で出荷先は3カ国。5月は9件で相手国は全て違った。
直接、畳店を訪れる訪日客もいる。予約なしでいきなり入ってきて「イグサを壁に張ってインテリアにする」と買っていった米国人女性や「日本を去るので畳を持って帰るという駐日大使館員もいる」と隆志氏は振り返る。
輸出は2000年、海外に住む日本人からの「畳の上でゴロンとしたい」などの声に応える格好で始めた。今ではイグサの香りに魅せられた外国人リピーターも獲得、出荷先は53カ国に達した。
10年10月にサウジアラビアのリヤドに送った70枚の畳はワンフロア一面に敷き詰められたが、4畳の堀ごたつや丸柱、暖炉などもあって「現地の設計士と1年以上も図面をやりとりして完成させた」と精一氏は懐かしむ。欧州の古城を買って屋根裏部屋を畳敷きにしたり、大型ヨットの内装に畳表を使ったりと、思いもよらない活用法に驚かされることも少なくない。
海外売り上げは右肩上がりで増え、今や4割を占める。「その比率は年々、高まっている」という。和室のない新築住宅が増えるなど内需が減っているからで、畳店も職人の高齢化や後継者難から減少の一途だ。
一方、森田畳店は将来を見すえ、外国人向けにホームページを充実、英語とフランス語でも対応している。海外で簡単・安価に畳を手に入れられる「畳メイキングキット」も開発した。
森田畳店がこだわるのは日本産の材料に加え、正確な寸法での製作や細かい箇所の処理、畳の裏面まで含めたきれいな仕上げ。日本の職人らしいきめ細やかさが外国人に受け入れられているといえる。
◆誰もまねできぬ
メード・イン・ジャパン、ハンドメード、天然の皮革-。愛らしい表情のキーホルダーなど立体的な革小物雑貨を手がけるバンカクラフト(千葉県船橋市)が海外進出を決めた要因だ。
海外事業部長を務める4代目の田中紺氏は「手作りなので海外の好みに合ったデザインと商品開発ができる上、革の可塑性を理解した熟練職人だからこそ作れる立体造形が強み」と言い切る。独創的なデザインを生み出した3代目の滋郎会長は「ノウハウを駆使して丸みのある商品を作る。誰もまねできず、まねても似て非なるもの」と自信を見せる。
■EC使い業績向上 「稼ぐ」モデルに
バンカクラフトの細部までこだわる革製品は、他社の追随を許さない。
2004年には「革物語」で商標登録し、大手百貨店やギフトショップなどで扱われるようになり、96犬種に及ぶ携帯ストラップやキーホルダーなどが人気だ。加えてネット販売にも注力、国内売り上げを順調に伸ばしていった。
だが、「人口が減る国内だけでは事業拡大が難しい」と考えた紺氏は、海外見本市への出展による販路を開拓し、さらに越境電子商取引(EC)を開始。商品の露出と顧客からの高評価レビューを見た小売店からの問い合わせも増え、13年以前の月数件から現在は15件に、地域も米国中心から欧州、アジアに拡大した。
手応えを感じた15年には海外向け自社サイトを開設し、英語でのやり取りとドル決済を可能にするとともに、英米に設けた倉庫から商品発送することで納期を短縮。これが奏功し、15年の海外ネット販売は950万円と13年比でほぼ倍増した。
高品質、オンリーワンの独自性が評価されて顧客を増やしてきたが、紺氏は「中小メーカーが独自に海外で稼ぐモデルケースになりたい」と意気込む。
海外販路の開拓支援を手がけるジャパンコンサルティング(東京都渋谷区)の佐藤亘社長は「類似商品がある中でなぜ選ばれるかを考えると、価格勝負はやめた方がよい。商品へのこだわり、コンセプトがないと支持されない」と指摘する。
国内顧客の厳しい品質要求に熟練の技術力で応えてきた中小・零細企業は、海外に打って出る資格を十分に持つといえる。(松岡健夫)
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