謎に包まれたままの任天堂「NX」 強烈なインパクトで本格的な巻き返しを

 
任天堂の決算会見で、次世代機「NX」を来年3月に発売すると発表する君島達己社長(右)=4月27日、大阪市中央区

 任天堂は開発中の次世代機「NX」について、年末商戦後の来年3月に発売すると明らかにした。期待されていた全容の発表も先送りされた。クリスマスなどかき入れ時をあえて外し、ソフトの数を充実させたうえで同時発売し、強烈なインパクトを市場に与える狙いだ。「まったく新しいコンセプトのゲーム専用機」とのふれこみだが、実体は謎に包まれたまま。ユーザー層が拡大するスマートフォンとの連携が予想されるなど、その中身が業界最大の関心事の一つになっている。遅くとも年内には明らかになるとみられる。(牛島要平)

 「6月の(世界最大級のゲーム見本市)E3ではNXの展示はしません。NXは来年3月に世界で発売します。特徴や価格、ソフトのラインアップは適切なタイミングでお知らせします」

 4月27日、大阪市内で開いた平成28年3月期決算の発表会見で、任天堂の君島達己社長はそう明言した。

 君島社長はこれまで、NXの発表について今年の「早い時期に」と語っていた。ファンの間では、米ロサンゼルスで6月14~16日に開催されるゲーム見本市「E3」に出展するとの見方も強まっていた。E3には毎年、世界中から業界関係者や報道陣が集まり、特に米国というゲームの巨大市場に訴えるには好適な場所とされているからだ。

 君島社長はそうした予想を覆し、「今年のE3では(人気ソフトの)『ゼルダの伝説』の最新作に焦点を当てます」と説明した。6月に向けて意識を集中させていた記者たちは肩すかしを食らった。

 会見では「NXは今年前半の発表と聞いていたが…」との質問が上がり、君島社長は「今申し上げた発売日程が(今年前半の)発表内容です」とかわした。会見終了後も、取り囲んだ記者から「なぜE3に出さないのか」と疑問が投げかけられ、君島社長は「E3は、年末商戦に向けて小売店が早く宣伝できるものが対象ですから」と答えた。

 NXの発表時期をめぐる任天堂の戦略は、君島社長が述べた次の言葉に集約される。

 「ハードとソフトの両方がきちんとそろい、発売開始からきちんと遊んでもらうことが大事だ」

 現行の携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」の場合、「年末商戦を外した23年2月に発売したことが苦戦につながったのでは」との見方もある。クリスマスから年末の「ホリデーシーズン」がゲーム業界のかき入れどきだからだ。

 それでも、NXは少なくとも「年末までにソフトがそろわない」という事情があるようだ。NXがどれだけハードとして技術水準が高くても、ソフトに魅力がなければユーザーにそっぽを向かれる。

 3DSは裸眼で3D(立体)映像がみられるという最先端の液晶技術を取り入れながら、同時発売の有力ソフトが少なく、旧型機ほど販売が伸びなかった。現行の据え置き型ゲーム機「WiiU(ウィー・ユー)」が不振にあえいできたのも、ソフトに恵まれなかったことが大きい。

 WiiUの28年3月期のハード販売数は国内で80万台(前期53万台)で、発売以来初めての増加となった。昨年5月に発売した任天堂の独自ソフト「スプラトゥーン」が記録的なヒットを飛ばすなど、ソフトの好調がハードを押し上げたことは間違いない。

 一方、スマートフォン向けゲームの市場拡大や仮想現実(VR)を使ったゲームの登場など、ゲーム業界がハードの技術面で大きく変わりつつあることも、NXとは無縁でなさそうだ。

 君島社長は会見でこうも語っている。

 「ゲームは日用品のように市場が最初からあるものではない。今までと違ったものを提供しなければならない。どれだけ驚きを提供できるか。NXはハード、ソフトの一体型で、新しいコンセプトの遊びを体験できる」

 ソフトの充実とともに、NXの成否を左右するのは「新しいコンセプト」、つまりハードの設計だ。

 18年に発売されて歴史的なヒット製品となった、WiiUの旧型機「Wii(ウィー)」は、テレビ画面とリモコンの無線通信で直感的な操作を実現。楽しんで運動できて日常生活に取り入れやすい「WiiFit(ウィー・フィット)」などの斬新なソフトとの組み合わせで、ゲーム人口を拡大した。

 NXについては内容が一切明かされていないが、ファンの間では「スマホと連携するのでは」との見方がある。ソフト開発のある企業関係者も「スマホと家庭用ゲーム機がうまくつながって遊びが広がっていく状況を生み出してほしい」と期待する。

 任天堂はスマホ向けの分野で布石を打ってきた。

 今年3月に第1弾のアプリ「Miitomo(ミートモ)」の配信を開始。国内だけでなく海外15カ国を含む全世界でのダウンロード回数が4月下旬で1千万回を超えるヒットとなり、改めて同社の持つ世界的な影響力を見せつけた。

 秋には「ファイアーエムブレム」と「どうぶつの森」という2つの人気コンテンツを使ったアプリの配信を予定するなど、来年3月までに計5本程度のアプリを提供するとしている。

 一方、ライバルのソニー・インタラクティブエンタテインメントは今年10月、据え置き型ゲーム機「プレイステーション4」に接続して利用するVR端末を発売予定だ。VRを導入したゲーム機は特に米国で先行して人気を呼んでいる。

 君島社長は「VRのゲームを出すかはまだ決めていない。関心を持たれていることは認識しており、無関心ではない」と述べるにとどまった。スマホやVRといった新しい市場で任天堂が後れをとっていることは否定できず、NXで本格的な巻き返しを図っていくことになりそうだ。