「任天堂ファンの威力を思い知った…」 Miitomoが異例の人気ぶり

 
任天堂初のスマートフォン向けアプリ「Miitomo(ミートモ)」のタイトル画面(同社提供)

 3月17日から無料配信されている任天堂の初のスマートフォン向けアプリ「Miitomo(ミートモ)」が好調だ。同月末に米国など海外15カ国でもサービスが始まり、4月中旬までに世界で約400万ダウンロード近くに達したとみられ、異例の人気ぶりといえる。同社は来年3月までに計5本程度のアプリを配信予定。キャラクターの着せ替え用の服装で課金し、一定の収益は確保しそうだが、任天堂の次世代型ゲーム機「NX」との連動もささやかれている。(牛島要平)

 任天堂ファンの威力

 「(無料通信アプリの)LINE(ライン)を超えた」

 3月19日、ミートモのユーザー数(ダウンロード回数)が100万人を超えたと発表した任天堂の広報担当者は、そう興奮気味に話した。

 米調査会社アップアニーのウェブサイトによると、米アップルの「iPhone(アイフォーン)」向け無料ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の新規ダウンロードランキングで、ミートモは17~26日の10日間連続でLINEやツイッター、フェイスブックを抑えて日本で首位に立った。

 米グーグルの基本ソフト「アンドロイド」搭載のスマホでは、全体のアプリで22~26日の5日間連続で日本で1位だった。

 市場も好感した。東京株式市場では任天堂の株価が急伸し、3月18日の1万5265円から28日には1万7065円まで上がった。

 ゲーム雑誌「ファミ通」を発行するカドカワの浜村弘一取締役は「世界中にどれだけの任天堂ファンがいるかという威力を思い知った」と驚きを隠さない。

 配信前からツイッターなどで「まだか」と待ちきれない声も出ていたほど期待値が高く、「まずはやってみる」というファンが多かったことがうかがえる。

 垣間見えるゲーム戦略

 ミートモは自分に似せたキャラクター「Mii(ミー)」を作成し、「最近気になっているニュースは」「行ってみたい場所は」「会ってみたい有名人は」などの質問に回答する。フェイスブックなどのSNSと連携し、SNSの友人がミートモに登録していれば回答を共有できる。

 通常の会話と違い、アプリで自動で次々に投げかけられる質問に答えていく方式なので、SNSでの自由な会話が苦手な場合も楽しみながら参加できる。「あの人の意外な一面」を知るきっかけになるのが特徴だ。

 任天堂がホームページで掲載しているPR動画は、女子学生がミートモで同級生の「プロレス好き」を発見してびっくりするというもの。アプリを通じて、現実の人間関係が意外な発展をしていくおもしろさを訴えている。

 カドカワの浜村取締役は「ミートモは新しいコミュニケーションのあり方を提案した。それだけでなく、任天堂の今後のゲーム戦略を垣間見ることもできる」とも分析する。

 任天堂の戦略の核ともいえるのが、ミートモと同時にスタートした会員制サービス「マイニンテンドー」だ。

 マイニンテンドーは、ユーザーが自分のID「ニンテンドーアカウント」を取得。任天堂のゲームなどで遊んだり、ダウンロードしたりするとポイントがもらえ、ソフト購入の割引クーポンやアイテムと交換できるというものだ。ミートモと連携させると、質問に答えるなど遊ぶごとにポイントがつく。

 浜村取締役は「ミートモでマイニンテンドーの会員が増加すれば任天堂の他のゲームにも誘導でき、収益の拡大につながるのでは」と指摘する。

 NXへの期待

 ファミ通の推計では、ゲーム専用機の国内ソフト市場(オンライン除く)は平成27年に1909億円で、前年比約15%減少。一方、スマホ向けゲームアプリは27年は8100億円で、前年比約13%増加した。任天堂がスマホ市場に参入したのも、こうした動向をにらんだうえでの決断だ。

 スマホ向けゲームアプリはガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」やLINEの「ディズニーツムツム」、ミクシィの「モンスターストライク」などが圧倒的な人気を誇る。

 これらのアプリはユーザーを飽きさせない工夫を凝らしたゲーム内容と、アイテム購入などの課金で収益を得るビジネスモデルを確立してきており、新参者の任天堂がどこまで食い込めるか懐疑的な見方もある。

 ただ、ミートモはキャラクターの着せ替えができ、服装の購入で課金する。「着せ替え」は特に若い女性には定番の遊び方だ。今後も順調にユーザーを伸ばしていけば、一定の収益を確保しそうだ。

 さらに任天堂の強みは、「マリオ」など人気キャラクターを豊富に抱えていること。今後、配信するアプリがマリオや「ゼルダの伝説」などのキャラクターが登場するものなら、ミートモ以上に注目を集めるのは確実だ。

 任天堂は携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」が低迷。据え置き型ゲーム機「WiiU(ウィー・ユー)」も有力ソフトが少なく、今後の経営を支え続けるだけの勢いに欠けるのは否定できない。

 切り札は今年前半に発表するとみられる次世代型ゲーム機「NX」だが、内容は一切明かされていない。ライバルのソニー・インタラクティブエンタテインメントは、据え置き型ゲーム機「プレイステーション(PS)4」に接続して利用する仮想現実(VR)端末を10月に発売予定だ。

 こうしたなか、一部のゲームファンの間では「NXはスマホアプリと連携したものになるのでは。自分の内側に引きこもるおそれのあるVRに対して、外部のコミュニティーとつながるミートモの遊び方が、任天堂の新しいゲーム戦略を暗示している」との見方もささやかれている。

 任天堂がミートモの好発進をどう「次の一手」につなげるか、ゲーム業界関係者やファンは固唾をのんで見守っている。