訪日客増加に冷や水?、風評被害の拡大に懸念
熊本地震JNTOが20日公表した平成27年度の訪日外国人旅行者数は、中国や東南アジアなどからの旅行客急増で、年度ベースで初めて2千万人の大台に乗った。だが、政府が新たに掲げた「32年に4千万人」の目標達成には課題が残る。熊本地震の被害が深刻化し、訪日客数の増加にブレーキとなる恐れもある。政府は風評対策も視野に、きめ細かな対応が求められそうだ。
「ダメージを最小限にとどめるためのプロモーションや情報提供をしたい」
2千万人突破の節目を迎えた20日の会見で、観光庁の田村明比古長官は“火消し”に追われた。熊本地震の影響に対する質問が集中したためだ。観光庁が地震被害に神経をとがらせるのには理由がある。
政府は訪日客数の上積みを図るべく、旅館施設の整備など受け入れ態勢の強化や、地方誘客への取り組みに乗り出したばかり。温泉や食材など、観光資源に恵まれた九州地方は地方誘客の牽引(けんいん)役として期待が集まっていた。
被災した熊本、大分両県内では、訪日客に人気の高い温泉地なども大きな被害を受けた。海外の旅行サイトで人気ランキング上位の由布院温泉(大分県)も地震発生後、観光客が引き上げた。また、空の玄関口となる熊本空港はターミナルビルが損壊し、海外の旅行会社では「九州行きの旅行で大量のキャンセルが発生している」(田村長官)という。
復旧に手間取れば、世界的な風評被害の拡大も懸念される。東日本大震災では、被災3県(岩手、宮城、福島)における23年の外国人宿泊者数が、前年の3分の1未満に激減した。27年も震災前の水準には届いていない。韓国などからの訪日客は、東北から足が遠のいたままだ。
東洋大学の島川崇教授(国際観光学)は「東日本大震災では、拙速な対応が政府情報の信頼を落とし、風評を長引かせる結果になった」と警鐘を鳴らす。政府は今後、訪日客を呼び込む「攻め」の施策に加え、日本離れに対し「守り」を強化していく、“二正面作戦”を余儀なくされそうだ。(佐久間修志)
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