知ってる?隠れヒット商品「蚊取空清」 “シャープらしさ”は今後残るのか

 
「蚊取空清」の商品発表会。販売促進用の蚊の着ぐるみも登場し注目を集めた=3月17日、東京都内(シャープ提供)

 経営再建中のシャープがまたもや独創的な商品を4月23日に発売する。蚊を吸い取る機能をつけた空気清浄機で、名付けて「蚊取空清」だ。台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業傘下に入ることが契約される直前の野心的な商品発表は意外性はあるが、実は、経営危機に陥る前から6年かけて開発した労作だ。目のつけどころのシャープらしさを支えてきたモノづくりの「ゆとり」が、徹底した成果主義で知られる鴻海の総帥、郭台銘会長のもとでどうなるか。消費者としては気になるところだ。(織田淳嗣)

 創業者の遺伝子

 「シャープには『人にマネされる商品を作れ』という創意の遺伝子があります」

 3月17日、大阪市内で開かれた商品発表会見で、シャープ空調・PCI事業部の中島光雄事業部長は、創業者の早川徳次氏の言葉を引用した。

 蚊取空清は昨年9月、ジカ熱やデング熱といった蚊が媒介する感染症が問題となっているマレーシアやタイなど6カ国で発売。この6カ国の空気清浄機市場が年間20~30万台で推移するなか、蚊取空清は半年で3万台弱を売り上げたヒット商品となっている。今回、日本でも感染症対策に関心が高まっていることから逆輸入することになった異例のパターンだ。

 マレーシアの販売会社から「蚊の取れる空気清浄機があれば売れる」とアイデアが持ち込まれたのは平成21年。それ以後、商品開発スタッフが4年間にわたり現地への出張を重ねて蚊の習性などの研究。商品開発に着手できたのは2年前だった。

 蚊が寄りつく黒色のボディーに、これまた蚊の好きな波長の紫外線を発信。さらに蚊の好む隙間(縦3・7センチ、横9センチ)を本体に10カ所につくっておびき寄せる。隙間に侵入した蚊は気流によって粘着シートに吸着する仕組みだ。そんな労作が発売されたのは昨年9月だった。

 亜熱帯である現地の蚊の被害は深刻だ。2日で殺虫剤のスプレー缶が空になる地域もある。近年はジカ熱やデング熱など蚊が媒介する感染症が社会問題化しており、蚊取空静は、社会的な課題解決に向けたシャープらしい商品となった。

 堅調な白物家電事業

 実際、シャープの白物家電の評価は高い。水蒸気で調理するオーブンレンジ「ヘルシオ」や、臼で挽いたお茶を点てる「お茶プレッソ」など独創的なヒット商品を世に送り出してきた。

 シャープの支援をめぐって鴻海と争奪戦を繰り広げた官民ファンド、産業革新機構は、シャープの白物家電事業に、赤字体質が続いていた東芝の同事業を組み入れることを検討。シャープの独創性や技術力を白物家電事業の業界再編の要とする考えだった。

 ただ、シャープは2月に経営再建のスポンサーに鴻海を選び、東芝は3月に白物事業を中国・美的集団に売却することを決めてしまった。革新機構の関係者は「国内企業で再編するという大義名分がひとつなくなった」と述べ、すでに未練はない様子だ。

 蚊取空清の6年間という開発期間について、シャープ関係者は「長すぎる」としながらも「部下が仕事の合間にアイデアを練り、上司も好きにやらせる風土があって独創的な家電が生まれる」と話す。鴻海傘下に入った場合にシャープの風土がどうなるかは未知数といえる。

 守れるか牧歌的風土

 親会社になる鴻海もシャープの白物家電には関心を寄せている。郭会長は契約を保留していた3月にも、シャープの白物家電の生産拠点である八尾工場(大阪府八尾市)を視察。バンコクのシャープ現地法人の白物家電事業の会議に出席するなど白物家電を支援する姿勢をみせている。

 ただ、郭会長の関心が最も高いのはシャープの液晶技術とされる。鴻海は合理主義とスピード経営で知られ、郭会長は徹底した成果主義者といわれている。

 シャープの“牧歌的”ともいうべき風土が育んできた「創意」が維持されるのか。今後の商品開発にもかかわってくるだけに気になるところだ。