VRがもたらす未来と課題 ソニー「プレイステーションVR」開発者が語る

 
「プレイステーションVR」がVR普及の鍵を握る

 頭に装着して目を覆い、そこに映像を出して、現実とは違った空間にいるように感じさせるバーチャルリアリティ(VR)の装置が、本格的な普及期を迎えようとしている。その尖兵となりそうなのが、家庭用ゲーム機「プレイステーション4」を展開するソニー・コンピュータエンタテインメントが送り出す「プレイステーションVR」。開発に当たったソニー・コンピュータエンタテインメント ワールドワイド・スタジオ プレジデントの吉田修平氏が、VRがもたらす未来像と、普及にあたっての課題を講演で語った。

 小説やマンガ、SF映画の中に登場する、現実とは違う仮想空間に入り込んで冒険や戦いを繰り広げるVRに、ワクワクした人は多いだろう。そんなVRが「いよいよ現実の物として、一般の人にも届けられる時代が来る」と吉田氏と。「プレイステーションVR」がその一翼を担い、ユーザーに今までにない体験をもたらすことを、今年1月に東京ビッグサイトで開かれた第2回ウェアラブルEXPOの特別講演で訴えた。

 VRヘッドマウントディスプレイの旗頭にもなっていた「Oculus Rift」の商品化が決まり、VRコンテンツを再生可能なスマートフォンを装填して楽しむ簡易型のVRヘッドマウントディプレイも登場。こうしたVRの開発が、ここに来て一気に進んだ理由を、吉田氏は幾つかの条件が「惑星直列的に重なった」と解説した。

 ひとつがスマートフォンの爆発的な普及。「VRの実現に必要な、高精細で性能の良いフラットディスプレーやセンサーが、スマートフォンの普及で大量に作られ、コストが下がり、性能も飛躍的に上がった」。3Dグラフィックスを描画できる高性能のコンピューターが作られるようになり、「Unity」「Unreal Engine」といった開発ツールを使って、リアルタイムの3Dを使ったコンテンツを作るディベロッパーや開発者が増えたことも挙げた。ハード、ソフトの両輪が揃って「素晴らしいVR体験を、コンシューマに届けられる環境になった」ことが、今の賑わいを呼んでいると言えそうだ。

 こうしたVRへの関心を一過性に終わらせず、永続的なエンターテインメントとして定着させていくためには、素晴らしいVR体験をユーザーに提供し続けなくてはならない。吉田氏はプレゼンスという言葉を掲げ、「没入感(Immersion)を越えた『別の世界に自分が存在することを信じてしまう』感覚」と説明して、これを提供する必要性を訴えた。

 プレゼンスを構成する要素として、視覚情報としての「SIGHT」、耳から聞こえる「SOUND」、動きを正確に読み取り追随させる「TRACKING」、操作性を現す「CONTROL」、装着した時の感覚「COMFORT」、情報そのものを示す「CONTENT」を挙げた吉田氏。「プレゼンスはとても壊れやすい。違和感がひとつでもあると冷めてしまう」と話し、「いかに違和感を感じさせる要素を取り除くか」が重要で、そのために「プレイステーションVR」には、様々な工夫を取り入れていることを明かした。

 「SIGHT」なら有機ELを使ったディスプレイに高精細の動画像を映し、「SOUND」なら360度から聞こえてくるような音場を作り上げる。普通のゲーム機の倍に当たる「120ヘルツで動作する有機ELディスプレイは自慢したいところ」と吉田氏。追随性が増して気持ちの良い映像体験ができるという。表示の遅延も「18ミリ秒未満。研究によれば頭を動かし、映像を動かす間の遅延が20ミリ秒を切ると、普通の動きと違いが分からない」。

 そうした高い性能を詰め込んだ上に、「COMFORT」の部分で「頭に圧迫感を感じないようにする」工夫を「プレイステーションVR」のデザインに取り入れた。ベルトでギュッと締めるというより、「頭で支える」といったスタイルで「重さをあまり感じないようバランスを取っている。装着すると、着けているのを忘れる感覚になる」という。

 「プレイステーションVR」を装着している人だけでなく、周囲にいる人も同じゲームを楽しめるようなゲームを作ることができるのも大きな工夫と言えそう。顔を覆ったプレイスタイルでコンテンツ世界に入り込み、楽しむケースが多くなりそうなVRの場合、楽しみ方が個人的なものになり、印象も暗くなりがちだ。「プレイステーションVR」では、VRをコミュニケーションのツールにして、大勢で楽しめるものにして明るさを醸し出している。

 普及に向けた今後の課題として吉田氏が挙げたのも、VRが「みなで楽しめて、人と人との繋がりを強くする新しいメディア」だと広く知ってもらうことだった。そのためには、「明るくソーシャルなイメージ作り」が必要で、「百聞は一体験に如かず」といったキーワードで、誰もが手軽に「プレイステーションVR」を体験できるような機会を提供していく考えだ。

 加えて「品質の高いコンテンツが命」とも。今まで誰も手掛けたことがない分野だけに、「ディベロッパーたちが情報交換を行い、ノウハウを共有して業界全体で良いコンテンツを作っていくことが必要」と訴えた。

 ゲームに限らず、博物館や美術館を3Dモデル化して、遠くからでも展示物に触れられるようにする仕組み、居ながらにして観光地や景勝地を体験してもらい、実際の旅行を促すような提案など、様々な分野に応用可能だ。

 報道の分野でも、遠く離れた場所で起こっている出来事を、身近に感じてもらえる仕組みとしてVRの活用が考えられそう。会場以外でライブイベントやスポーツイベントを楽しむ技術は、来たる2020年の東京オリンピック/パラリンピックに向けて本格的な開発が進みそう。こうしたVR時代の到来に向けて、「安価且つ規格が統一のPS4で体験できるテンタテインメント」として、「プレイステーションVR」は普及の一翼を担いそうだ。