ジワジワくるプレミアム! ボルボ「S90 PHEV」骨太でありながら華がある

提供:clicccar

 年初のデトロイト・ショーでワールド・プレミアを控えるボルボの新しいS90が、スウェーデンのイェーテボリで12月初旬、事前発表会の枠組みで公開されました。

 ラッキーにもそこへ潜り込むことができたので、現場での見聞やクルマの印象をお伝えします。

 そもそもS90が送り込まれる欧州Eセグメント(以下Eセグ)は、BMW5シリーズやメルセデス・ベンツのEクラス、アウディA6やジャガーXEといったプレミアム・サルーンがひしめいており、レクサスGSやインフィニティQ70も参戦中の激戦区。

 上代が限られる分、コスパを気にして造らざるをえないD、C、Bセグメントと違いまして、「これを造りたいから造る」という各メーカーの価値観の反映や提案の本気度が問われるセグメントでもあります。

 もちろん、その上にはまだ7シリーズやSクラスといったFセグが控えますが、Eセグはドライバーズ・カーとしてひとつの到達点ですし、同時にベントレーのような雲上サルーンをも考慮したなら、入門編でもあるという奥の深いクラスなのです。

 ボルボはS90にも今回、新プラットフォーム「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)」と、同じく自社開発による「T8 Twin Engine」というPHEV(プラグイン・ハイブリッド)のパワートレインを投入しました。

 「にも」としたのは、春先に日本上陸予定の新型XC90が、先立ってSPA+PHEVを採用しているからです。いずれも2010年にフォード・グループと別れた後、数千億円を費やしてボルボが独自開発を進めた新世代のコンポーネントであります。

 片やホイールベースとトレッドとキャビン位置とオーバーハングが自在に変えられるモジュラー・プラットフォーム、片や今後の数年間、ボルボの中核となるパワートレインです。

 つまり2016年から、ボルボのラインナップは順にこれら新世代モデルに入れ替わっていくのですが、2020年までにボルボは新世代モデルでの事故死者・重傷者ゼロにするという野心的な目標を公言しています。

 その目標を果たすためのラインナップ刷新前夜、そんなタイミングを意識しますと、一見して控えめだが堂々としていてクリーンな線でまとめられたS90が、やたらジワジワとくるんです。

 では具体的にボルボはS90で、どんなストーリーや価値観を語ろうとしているのでしょうか?

 そのキーとなるのは「スカンジナビアン・デザイン」、そしてスーパーチャージャー&ターボ過給の2Lガソリンエンジン320ps・400Nmで前輪を駆動し、87ps・240Nmの電気モーターで後輪を駆動するPHEVパワートレインです。

 計407ps・640Nmを発揮するパワフルなAWD仕様ですが、カタログ燃費は100km走行あたり1.9L、つまりリッター52km強。それでいてCO2排出量は44g/kmに抑えられているのですから、圧倒的ですね。

 「パワフルであることを表現するのに攻撃的である必要はない」と、ボルボのチーフ・デザイナーであるトーマス・インゲンラートは断言していました。

 先代と比べた時に、キープコンセプトとロー&ワイド化に傾きがちな、ともすれば保守的なEセグメントで、明らかに違うカードを切っているのです。

 しかもホーカン・サミュエルソンCEOに、S90で到達すべき目標が何かを問うと、「私の仕事は、財政面で開発陣をサポートすることで、これここに行きなさい、と彼らに指示を与えることではないのです」という答えが返ってきました。

 プレミアム・サルーンをトップダウンではなく、現場との合議によって造りたいモノを造らせている、そんな静かな誇りさえ感じさせる、アンダーステイトメントな回答といえるでしょう。

 実際、スカンジナビアン・デザインは、極地の厳しい自然を含む国土で育まれただけあって、人命の尊重や、少数ながら民主主義的な合議によってコトを運ぶ姿勢が、DNAの中に織り込まれています。

 そしてボルボはかなり意識的に、スカンジナビアン・デザインのエッセンス、デザイン・ランゲージを磨いてきました。キーワードとして並べてみれば、妥協のない安全性、人間を中心に据えた柔らかな機能性、陰影を重視しつつ時には刺激的な創造性、そして内面の充足ゆえに滲み出るナチュラルな自信、といった辺りですね。

 まず安全面に関して、S90が用いるSPAプラットフォームはそれ自体がPHEVのための構造で、9.2kWh容量のリチウムイオン・バッテリーはセンタートンネル内、ホイールベースの中央に位置します。

 衝突時の安全性と動的性能を互いに損なうことなく最適化した、一石二鳥のレイアウトです。

 またS90は世界初の機能として、昼夜を問わず郊外の路上などで鹿やトナカイなど大型動物を検知する自動ブレーキを採用しました。これは市街地で自転車や歩行者に対して機能するシティセーフティの延長といえます。

 一方でセミ自動運転機能として、「パイロット・アシスト」が2世代目に進化。

 高速道路で自動的にステアリング修正を行ってレーンキープする機能が130km/hまで使えます。従来のACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)と異なり、前走車を必要としないシステムです。

 もうひとつ重要な機構は、「ランオフ・ロード・ミティゲーション」。

 これは路肩にクルマが落ちそうになった時、路上に留まるためステアリングとブレーキに自動介入が働く機構です。とはいえ先のパイロット・アシスト同様、いつでもドライバーが割って入る操作が優先されるため、あくまでも安全マージンを広げるためのデバイスといえます。

 これらを前提にS90を眺め直すと、4963mmの全長と2941mmのホイールベースというエグゼクティブ・サルーンにふさわしい伸びやかなプロポーションや、北欧のクリスタルガラスとして知られるオレフォス製のシフトレバーなどが、デザインのためのデザインや単なるコスメティックとは一線を画すことが分かります。

 骨太でありながら、華があるのです。

 とくにインテリアに関しては、採光がソフトなだけでなく、シートに腰を下ろした感覚まで柔らかく甘めで、ウッドやレザー、アルミの質感が心地いいです。

 エアコンのルーバーのツマミに刻まれたダイヤモンド状のカットなどは、目に彩なだけでなく、指先で感じるタッチの上でも適度なエッジ感をもたらします。

 どこかオフィスのようなドイツ車、ホテルのようなラテン系のクルマと違って、自宅のサロンやラウンジのような感覚があるのです。

 いってみれば、スウェーデン独特の上質さを静かに語りかけてくるS90は、かなり大人のクルマ。

 あれもこれも、ではなく、何が大事かプライオリティの分かっている大人のプレミアム・サルーンでした。日本への導入予定は2016年後半で、Eセグのオルタナティブとしてどう受け入れられるか、楽しみな一台です。

 (南陽 一浩)