ここでの議論は、人工知能とロボットがまだ人間並みには達しない、前特異点以前の時代に話を絞る。これから10~15年先の話である。そのときに人工知能やロボットにできる仕事とできない仕事とは何だろうか。できる仕事は単純な繰り返し作業、定型的な仕事である。
できない仕事とは何か。ロボットの例がわかりやすい。ロボットがやりやすい仕事とは、繰り返しの多い単純な作業である。逆に単純でない仕事はロボットには難しい。たとえば家の掃除を例にあげる。ルンバのような人工知能を備えた掃除機がある。しかしルンバは平坦な床を掃除するだけで、階段を上ったり、狭い隙間を掃除したり、いわんや机の上は掃除できない。そのように家の掃除というのは、実はかなり高度な作業なのである。だから家政婦のような職業は、当面、機械に取って代わられることはない。
実は、ロボットがその仕事をできたとしても、企業家の立場からすれば、機械と人間のどちらが安いかによって、人間を雇うかロボットを導入するかを決定する。ロボットの値段が高いうちは、人間の肉体労働はなくならない。しかし人間の労働に対する対価、つまり給料を低下させる要因となる。人間のほうが安ければ、企業家は人間を雇うのである。
トップと一番下は“安泰”、中間の職種が“不安定”
もう1つの要因は、労働問題だ。アップルはiPhoneの生産を台湾の企業に委託し、その台湾の企業は中国で100万人もの労働者を雇用している。しかし労働環境があまりに劣悪で、労働者による労働争議が起きた。それに対する台湾企業の経営者の対応は、100万台のロボットを導入して、労働者に置き換えるというものだ。