2021.9.16 06:02
もう秋ですね。秋は3月期決算の企業にとっては上期と下期の切り替えの時期。上期の終わりとして、人生や働き方を再考し始めている人がいるかもしれませんね。実際、上期と下期が切り替わる10月は、新規求人が増える傾向にあるのだそうです。そこで今回は、転職に関するお話を書きたいと思います。
私が経営者になってまもなく6年が経とうとしております。この6年間で、採用面接をさせて頂く機会や、いろんな方とお仕事でご一緒させていただく機会が多くありました。
その中で、「大手企業からスタートアップに転職したい」と考える人にお会いすることも増えました。私にとっては嬉しいという気持ちが大きいです。しかし、実際はというと、スタートアップと大手のギャップについて行けず、“残念な結末”を迎えるケースもありました。
そのような経験の中で、私が感じた「スタートアップに向いている人、やめたほうがいい人」のポイントをお伝えいたします。
スタートアップ歴6年の私が思う「向いてる人」「向いてない人」
下記のように、スタートアップに向いている人のポイントの裏を返すと、向いていない人のポイントになることが多いですね。
▼スタートアップに向いている人
1.変化を好む人
2.目の前のミッションの先を考えられる人
3.興味を持ち続けられる人
4.自立している人 / セルフマネジメントができる人
5.自分で考えて、仕事をつくれる人
▼スタートアップに向いていない人
1.変化にネガティブな反応をする人
2.言われたことだけや業務範囲を守りたい人
3.待遇や福利厚生制度を「求めるだけ」の人
4.転職を機に「年収アップ」を求める人
5.裁量と責任の関係性がわかっていない人
6.過去の成功に依存する人
7.否定するだけで提案できない人
上記の中には、読者の皆さんもある程度想像がつくポイントがあると思います。そこで今回は、“裏返しにならない”ポイントにフォーカスしていきます。
まず、「スタートアップに向いている人」の特徴について述べていきたいと思います。
「スタートアップに向いている人」とは
▼変化を厭わない人
先のリストでも真っ先にあげた「変化を好む」。これは一番重要だと思います。
スタートアップというのは変化・変化・変化の毎日です。限られた人材や資金を使って、スピード感をもち、試行錯誤しながら世の中を変えていけるようなサービスを提供しているのがスタートアップの特徴といえます。
決まりきった業務範囲や作業というのはほとんどありません。社員それぞれがPDCAを回しながら、会社やサービスを変化させながら成長につなげて行くのです。
「変化」という言葉にアレルギーがある方は、絶対にスタートアップへの転職はお勧めできません。
▼目の前のミッションの先を考えられる人
2つ目に挙げた「目の前のミッションの先を考えられる人」とはどのような人かご説明します。
スタートアップというのは環境が整っているわけではありません。入社時に会社が掲げるミッションに深く共感したとしても、日常の仕事はそのミッションをクリアするための課題解決です。目の前のことだけを見続けたり、考え続けたりすると、迷ったり壁にぶつかることがあるのです。
そんなときに、「ミッションの先」、つまり、会社が成長した10年、20年…50年先を見ていれば視野を広く保つことができます。スタートアップでは常に、強い想いを持って働き続ける必要があるのです。
スタートアップで働く際には、「将来はこんな世界になっているはずだ!」と自分自身を鼓舞できるのは実はとても大切なことだと思います。これを人に言われて見出すのではなく、自分自身で発見する必要があります。
他のポイントにも通じるのですが、興味を持ち続け、自立し、考えて仕事をつくれる人は、こういった思考を持てる人で、スタートアップには心強い存在になります。
次に、「スタートアップに向いていない人」のポイントについて解説していきたいと思います。
「スタートアップに向いていない人」とは
大手企業からスタートアップに転職した人の中には、そのギャップから、入社したものの短期間で退職するといった残念な結果を迎えた人もいます。
▼福利厚生や待遇を「求めるだけ」の人
スタートアップというのは、先ほど「環境が整っていない」と表現したとおり、資金、人材などすべてのリソースが限られています。
昨今、大型の資金調達をするスタートアップは後を絶ちません。そういったニュース記事だけをみていると「スタートアップでも資金が潤沢にありそう」と思うかもしれませんが、多くのスタートアップの場合、調達した資金というのは事業を成長させるための投資資金として調達しています。要は資金使途というのは決まっているわけです。
もちろん、事業を成長させるためには優秀な人材を確保することも必要です。働きやすい環境を整えることも大切です。しかし、それだけに使うわけにはいきません。
スタートアップの場合、会社の福利厚生や待遇というのは、求めるだけでは実現できません。
「自分がこの会社に入って、事業を成長させ、その暁にはこういう福利厚生制度や待遇面を整えていこう」
社員ひとりひとりに、このようなスタンスが求められます。
最初から恵まれた環境で仕事をしたいのであれば、大手企業のほうが圧倒的に整っています。働く上で環境を確認して転職することは重要ですが、最初からそこばかりを気にする人はスタートアップに向いていないと思います。
▼裁量と責任の関係性がわかっていない人
私が、「スタートアップへの転職で残念な結末を迎えた人」の共通点だと考えるのが、「裁量と責任がセットで考えられていない人」です。
よく大手企業からスタートアップに転職する理由を聞くと「裁量を持って仕事をしたい」という回答が返ってきます。これは私も共感します。しかし、裁量を持つことは同時に責任を持つことでもあるわけです。これが意外と分かっていないというか、切り離して考えてしまっている人が少ないように思います。
経営者からすると、裁量を持って仕事をしてもらうには、それなりに責任感を持って仕事をしてもらわなくては困ります。そうでなければ、周りもついていきません。
▼過去の成功に依存する人
そして私が一番伝えたいのは、「過去の成功に依存する人」はほとんどの場合、スタートアップにマッチしないということです。
大手企業とスタートアップで如実に違うのは、「業務範囲の広さ」です。大手企業というのは人材が潤沢です。そして、サービスや業務体制も出来上がっているケースが多いです。それゆえ、一人一人が担う業務も範囲が決まっており、「ここからここまでをきっちりこなすこと」が評価の前提となります。
こういった環境に長くいると、言われたことだけをきっちりやれている自分が優秀で、評価されると感じると思います。大手企業ではそうかもしれません。
しかし、その功績を過信し、スタートアップでもその考えのまま転職してしまうと、ほとんどの場合、失敗します。
スタートアップの場合は、人材が潤沢でない上に、サービスや会社組織自体も発展途上です。日々変化を繰り返すわけですから、業務範囲というのは存在してないようなものです。新しい試みに着手する際に新たに採用できるわけではなく、今いるメンバーの誰か、または今あるチームで担う必要があります。
そういった状況下であっても、「これは自分の業務範囲じゃない」と感じる人はスタートアップには向いていません。むしろ「今までやったことないけど、いい経験になるかも。チャレンジしてみよう!」と思えないと無理です。
本当に優秀な人というのは、業務範囲の違いを説明されなくとも「大手企業とスタートアップの違い」をイメージしています。それまでの経験をリセットして、自分をスタート地点に立ち帰らせることができるのです。実力と自信があれば、そこから新たにキャリアを作り上げられると考えられるわけです。
しかし、自分に自信がない人ほど大手で活躍した経験をもとに給与アップを試みたり、役職を求めたりします。こういう人は大抵の場合、スタートアップに転職しても成功しません。
採用の際、スタートアップ経営者としてチェックしていること
スタートアップで働く際の適性について少しハードにお伝えさせていただきましたが、これはスタートアップ経営者である私の役割でもあると思っています。
誰しも転職を考える際「失敗したくない」と考えると思います。私もそうでした。今自分がスタートアップに身を置いてみて、自分自身が経験したからこそ、向いている人・そうでない人は自分の言葉でしっかり伝えるべきだと思っています。
転職というのは一度しかない人生・時間をどの会社に費やすかと決める非常に重大な意思決定だと思います。大手企業もスタートアップもそれぞれメリット・デメリットがあると思います。特徴や特性もあると思います。
エージェントや転職媒体も増えて行く中で、大切なのは、「自分がどうしたいか」を自分が理解していること、そして「覚悟」です。面接を通じて「覚悟」が感じられなければ、スタートアップで働き続けることは難しいと思います。スタートアップは「覚悟をもった少数精鋭の集団」なわけですから、覚悟がない人はその中で浮いてしまうわけです。
自分の意思と環境が合致して初めてその転職は成功したと言えると思います。
大手企業からスタートアップに華々しく転職して成功した事例というのが目立ちますが、その裏で、失敗につながってしまった事例というのも非常に多いです。簡単そうに見えるスタートアップの転職ですが、大手企業に転職するより「覚悟」が必要になることは間違いないと思います。
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橋本真里子(はしもと・まりこ)
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株式会社RECEPTIONIST 代表取締役CEO
大学卒業後、IT企業を中心に上場企業などで受付業務に従事。受付嬢として11年間、のべ120万人以上を接客。2016年にRECEPTIONISTを設立し、翌年にクラウド受付システム「RECEPTIONIST」をリリース。日程調整ツール「調整アポ」、会議室管理サービス「RECEPTIONIST For Space」ともに、コミュニケーションをワンストップで効率化する世界を目指し、年間利用回数は120万回超。
【元受付嬢CEOの視線】は受付嬢から起業家に転身した橋本真里子さんが“受付と企業の裏側”を紹介する連載コラムです。アーカイブはこちら