【ビジネストラブル撃退道】政府のコロナ対応が“反面教師”に ビジネスで多発する「専門家任せ」の無責任

2021.4.28 06:00

 西村康稔経済再生担当大臣を見てると「無能な責任者」を思い出してしまうのである。この人物のこれまでの動きを見ていると我々が「仕事上やってはいけないこと」の示唆に富んでいることが分かる。つまりはビジネストラブルがいかに発生するか、のケーススタディを日々我々はニュースで見ているのだ。政府のコロナ対策の失敗の理由がよく分かる。

 コロナ対策、責任の所在は…

 4月22日、緊急事態宣言の発令について「なんとしても感染者数を減少させなければならない。近く分科会を開き、専門家の意見を聞いた上で最終的に判断する」と述べた。

 そして25日、実際に緊急事態宣言が発動された後の会見では「分科会の専門家からも、徹底した対策がとられれば必ず成果は出るという指摘がある」と述べた。

 どうもこの人と菅義偉首相は何かを話す時に「専門家が」と言い続ける。そして、分科会の尾身茂会長も一応意見は言うが「我々は提言するだけの立場、決めるのは政治家」というスタンスを取る。このやり取りをもう1年以上やっているわけだが、互いに何ら責任を取っていない。

 両者の置かれた状況を簡単にまとめると、以下のようになるだろう。

 政治家(西村氏、菅氏):我々は感染症のプロではないから、解決策を持たない。専門家にそこは委ねているし、決めたことも専門家の意見に従って我々なりの政治判断をしているだけである。

 専門家(分科会・尾身氏):我々は感染症のプロではあるが、あくまでもその知見から類推できる事態・展望を最終的な決断を下す政治家に伝えているだけである。政治家が発令したものについて私達に文句を言われても困る。

 政治家:いやいや、あなた方が言ったから我々はこの発令をしたんですよ……。

 専門家:最終的な決定権はそちらにある。

 完全に責任のなすりつけ合いになってしまっている。

 もう1年3ヶ月以上もこの騒動をやっているのだから、西村氏にも相当な知見が溜まっているだろうし、分科会が提言することの大部分は「想定内」といった状況だろう。そして、分科会は「最悪の事態」を言うものである。当然楽観論も述べるが、決断する人間は最悪の事態、ないしはその中間の意見を採用し、楽観論はまず採用しない。

 「とにかく何かあった場合に責任を取りたくない」という気持ちから、毎度「専門家の意見を聞いて」の一言を挟み込むのだ。

 仕事でも多発する「お任せします」の逃げ

 これはビジネスの世界でも多々発生するのではないだろうか。私の場合、「PRの専門家」ということで広告会社の営業と一緒に仕事をすることは多かった。クライアントに対する責任者はその営業・A氏である。A氏は「PRの専門家・中川氏を連れてきました」と言い、その後「その場にいるだけ」といったこともある。

 事前の打ち合わせで私は大抵「これしかないです!」と渾身の1つの案だけを持って行く。だが、「クライアント、けっこうビビりなので、松竹梅の3つを作ってもらえますか?」と言われ、プレゼン当日は3つ持って行くこととなる。大抵採用されるのは「竹」になるのだが、A氏は「本当は最初に中川さんが持ってきたものが良かったんですけどね」なんてプレゼン後に言うのである。

 実際問題として、A氏だって散々PRをやってきたのだから自分の頭で企画は考えられる。私はPRの専門家として「社会の空気」「こんな記事のアウトプットがイメージできる」「どのメディアがこの企画を気に入るか」といった観点から作る。A氏の場合は「クライアント企業らしい企画」や「クライアントから採用されやすい企画」を熟知しているだけに、そこの調整をキチンとしてほしいのである。そう考えると、あくまでもこのクライアントが相手の場合、A氏の方がPRパーソンとして私よりも優秀かもしれないのだ。

 それなのに「あとはPRの専門家・中川さんにお任せします」と逃げてしまう。この様が西村氏や菅氏と似ているのである。尾身氏が会見で時々「えっ? 今私に振るのですか?」のように困惑することがあるが、まさに上記のようなPRの仕事における私の立場である。

 これからも西村氏の会見や国会での発言は注視した方がいい。「仕事上やってはいけないこと」が随所に見られ、良い反面教師になるだろう。仕事人たるもの、「私はこれが正しいと思う!」とガツンと言い放ち、それで周囲を動かす。それで失敗した場合は潔く失敗を認め、降格なり辞職すればいいのである。そして、社会はその人の再登板を認めるようになればいい。

 事なかれ主義がすっかり染み付いたから日本の現在はもう破滅的にダサい状態になっている。ワクチン開発もできず、獲得もできず、家電業界は中国・台湾・韓国の後塵を拝している。どうしてこうなった……。

36404

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)

images/profile/nakagawa.jpg

ネットニュース編集者
PRプランナー

1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら

閉じる