社会・その他

「昭和には根拠のない希望があった」居酒屋店主が見てきた新橋サラリーマンの“ある変化”とは (4/4ページ)

 ■もうこんな日々は戻ってこない

 最後の日、親子2代で常連だったという客は、父親の遺影とともにやってきた。ある人は花束を持参し、ある人は夫婦と記念写真を撮った。

 店が終わる午後11時を過ぎても、リタイア世代中心の常連たちは別れを惜しむように残っていた。そこに存在していたのは、タイムスリップしたかのような「昭和」だったのかもしれない。

 彼らの笑い声を聞きながら思う。停滞の中で「昭和」への憧憬(しょうけい)だけが強まる時代を自分は生きていたなと。会計を済ませて、店を後にした。もうこんな日々は戻ってこない。

 外は2020年--本来なら令和に元号が変わり、華々しく1964年以来のオリンピックが開催される予定だった年、コロナ禍の新橋の夜である。マスク姿の人々が家路を急ぐ。人通りは普段の半分もなく、会話もない。

 SL広場には客引きの声だけが響き、酔客のコメントを取ろうとしていたテレビクルーはスマートフォンを眺めながら暇を持て余していた。(記者/ノンフィクションライター 石戸 諭)

 石戸 諭(いしど・さとる)

 記者/ノンフィクションライター

 1984年、東京都生まれ。立命館大学卒業後、毎日新聞社に入社。2016年、BuzzFeed Japanに移籍。2018年に独立し、フリーランスのノンフィクションライターとして雑誌・ウェブ媒体に寄稿。2020年、「ニューズウィーク日本版」の特集「百田尚樹現象」にて第26回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞した。2021年、「『自粛警察』の正体」(「文藝春秋」)で、第1回PEP ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象』(小学館)『ニュースの未来』(光文社)『視えない線を歩く』(講談社)がある。

(PRESIDENT Online)

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