仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは『伝説の外資トップが感動した「葉隠」の箴言』(致知出版社)--。
江戸中期、鍋島藩士の口述をまとめた『葉隠』
論語や孫子、韓非子など、中国古典には現代に通じるビジネスのヒントを見出せるものが少なくない。だが、日本の古典も負けてはいない。
そんな「ビジネス書」としても使える日本の歴史的書物の一つに『葉隠(はがくれ)』がある。江戸時代中期に鍋島(佐賀)藩士の口述をまとめた書物である。
本書では、シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどで陣頭指揮を執り、伝説の外資トップと称される著者が、『葉隠』全11巻の中から31本の“箴言”を選び、自らのビジネス経験などを交えながら、現代のビジネス、働き方、生き方にも通じる原理原則を見出し解説。
「武士道といふは、死ぬ事と見つけたり」の一節で世に知られる『葉隠』だが、「主君や藩のために潔く死ぬこと」ではなく、むしろ組織の中で「よりよく生きる」ための心得と方法を説いた書なのだという。
著者は1936年東京生まれ。国際ビジネスブレイン代表取締役社長。名だたる外資系企業6社で活躍し、うち3社で社長職を、1社で副社長職を経験した。50年以上にわたり、日本、欧州、米国の企業の第一線に携わり、経験と実績をベースに、講演や企業研修、執筆活動を通じて「リーダー人財育成」の使命に取り組んでいる。
1.武士道といふは、死ぬ事と見つけたり
捨て身で挑む人には不思議と勝機が訪れる
2.リーダーに求められるのは昔もいまも人間力、そして忍耐
3.葉隠に学ぶ人を動かす気配りと知恵
4.人生を最期まで輝かせる葉隠の教え
「武士道といふは、死ぬ事と見つけたり」
葉隠とは、鍋島(佐賀)藩士の山本常朝が口述した話を、同じく藩士である田代陣基が書き留めた全11巻の書籍である。山本常朝は主君鍋島光茂公の死去の際、殉死禁止の君命を守り、殉死することは留まったが、42歳で出家してしまった。
「武士道といふは、死ぬ事と見つけたり(武士道とは、死ぬ事であると悟った)」。この強烈な一句によって、葉隠は広く世に知れ渡るようになった。
しかし私は、葉隠は死ぬことを迫る書物ではなく、生きるための書物、それも現代に通じる組織の中で働く人のための「よりよく生きる方法」を記した書物と思っている。いわば滅私奉公の対極にある「活私奉公の道」を具体的に説いたものが葉隠である。
「死ぬ事と見つけたり」と書いてある葉隠だが、そう言った山本常朝は、主君の逝去に際し、死ぬことがかなわず、当時としてはけっして短くない61歳の天寿を畳の上でまっとうしている。命を捨てようと思っていても、必ずしも死ねるとは限らない。これは「死ぬ事と見つけたり」と喝破していた常朝自身が身をもって痛感したはずである。
死ぬ気でやると、かえって「生きる道」が拓けることがある
生死は人知を超えたもの、だから死ぬ気でやっても、必ずしも死ぬとは限らない。むしろ死ぬ気でやったほうが、かえって生きる道が拓けることもある。山本常朝はそこまでわかっていて、「死ぬ事と見つけたり」と言ったのではないかと私には思えてならない。
生きるほうが得で、死ぬのが損というのは昔の人もそう考えた。したがって、損得で物を考えれば、生きるための保身が優先される。しかし、保身ばかりでは、結局よい仕事などできないよと葉隠は言う。よい仕事をするには、保身への執着から解放し、自由にする必要がある。リーダー本人にとっても、保身ばかりにとらわれると、それが発想や行動を縛る枷(かせ)となる。自由に考え、行動できない人によい仕事ができるはずはない。
だが、保身か捨て身かという二者択一の場面で、損得を考えないということは難しい。どうしても損得が目の前にちらつく。すると、修羅場に向かう心と身体がすくむ。そうなると、もうよい仕事などできない。だから、普段から腹をくくっておくことが大事と葉隠は言う。
現代社会では仕事で失敗しても、本当に切腹させられることはない。しかし、降格、左遷、解雇は組織で働くビジネスパーソンにとって、ある意味で死に等しいと言える。
難しい仕事に挑んで失敗し降格、左遷、解雇されたらどうしようと思うから、身も心もすくんで自由が奪われる。葉隠は降格、左遷、解雇されても(=死んでも)恥ではないと言っている。だから、はじめから降格、左遷、解雇もOKと覚悟して、仕事に臨めばよいと言うのだ。