働き方

「在宅勤務中もタバコを吸ってはいけない」 管理職はどこまで管理すべきか (2/2ページ)

 (2)管理職に無意味でどうでもいい仕事を増やす

 管理職は、社員の不祥事など、管轄する部門内で生じるすべての出来事に対して監督責任を負う立場です。

 会社が在宅勤務中であっても社員に禁煙を求めた場合、会社の目を逃れて喫煙している社員がいたと発覚すれば、上司である管理職も監督責任を問われることになります。管理職としては、在宅勤務であっても社員に禁煙を順守させなければなりません。

 しかし、在宅勤務中に喫煙していないかどうかを監督するのは極めて困難です。

 (1)で示したようにテレビ会議システムを常時接続したとしても、管理職がずっと社員の様子を眺めていられるわけではありません。自分が席を外している間に、部下がこっそり喫煙していることだって考えられます。

 当然ながら、社員の監督以外にも管理職にはたくさんの仕事があります。

 在宅勤務者の喫煙を監視するという、到底コンプリートできるはずのないミッションに時間と神経と労力を費やすことに、果たしてどこまで意味があるのか疑問です。

 もし、在宅勤務者への禁煙要請などあくまで形式的な表向きの方針にすぎないという、暗黙の了解があるのだとしたら、ブルシット・ジョブ(無意味でどうでもいい仕事)そのものです。

 得てして、他律的マネジメントを軸にした会社はそんなブルシット・ジョブを生み出し、管理職を含むあらゆる社員の不毛な仕事負担を増やしてしまいがちです。

 (3)「テレワークは無理」柔軟な働き方が機能しない

 他律的マネジメントの職場は、社員が自分の仕事の“終わり”を決められません。

 自分ではその日の仕事が終わったと思っていても、帰宅しようとした寸前に管理職から「ちょっとこれやっといて」と仕事を振られて残業することになったりします。

 有給休暇を取得しようと思っても、休みを取得した日に、もし管理職から想定外の業務が振られてしまったら、自分が休んだために他の同僚たちにその業務が振られてしわ寄せが行くことも考えられます。

 そんな心理が働いてしまうため、仕事が自律的にコントロールできない職場は、どうしても休みがとりづらくなってしまうのです。

 また、自分の仕事が自分でコントロールできない職場はテレワークもしづらくなります。管理職としては、出社して目の前で仕事している社員から得られる情報量に比べ、目の前におらず、自宅や遠隔地で仕事している社員から得られる情報量は圧倒的に少なくなります。

 その場で得られる情報を踏まえて管理職が都度適切に判断し、社員に細かな指示を出していく他律的マネジメントは、テレワーク環境にはなじまないスタイルです。

 社会が大きく変革する時代に他律型はなじまない

 在宅勤務中の喫煙さえ社員に委ねられず、会社が何でも制御しようとする他律的マネジメントのままであっても、メッキを施すかのようにうわべだけ制度を整えるのは可能かもしれません。

 しかし、テレワークを組織の中で機能させて生産性を高めようと思うのであれば、社員が自律的に仕事に取り組めるよう業務そのものを設計し直す必要があります。つまり、他律的マネジメントから自律的マネジメントへとゲームチェンジしなければならないということです。

 冒頭で触れたように、「在宅勤務中の禁煙」は、野村ホールディングスやイオン、味の素、カルビーといった錚々たる会社で導入されています。いずれも日本を代表するすばらしい会社であり、組織改革にも積極的な印象があるだけに、在宅勤務者に禁煙要請するような他律的マネジメントへの“固執”が、今後の組織機能にマイナスの影響を及ぼさないか気になります。

 (1)~(3)に見たような弊害を防ぎ、少子化による人口減少が続く日本社会において働き手から選ばれる職場であり続けるためにも、他律的マネジメントから自律的マネジメントへゲームチェンジすることは、とても重要な鍵を握っていると思います。

 川上 敬太郎(かわかみ・けいたろう)

 ワークスタイル研究家

 1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、人材サービス企業役員、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚労省委託事業検討会委員など、様々な立場から雇用労働関連事業の運営に従事。現在は“ワークスタイル”をメインテーマにした研究・執筆・講演、事業運営や広報ブランディングアドバイザリーなどの活動に携わる。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。

 (ワークスタイル研究家 川上 敬太郎)(PRESIDENT Online)

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