5日に閉幕を迎えた東京パラリンピックをレガシー(遺産)とするには、障害者が分け隔てなく社会に参加していける「共生社会」を築けるかにかかっている。障害者雇用は増加傾向にあるものの、国が定める障害者雇用率を達成できている企業は48・6%にとどまる(昨年6月調査)。新型コロナウイルス感染症により足元では障害者の求人が減るなど、アスリートの活躍の陰には厳しい現実もある。
東京都千代田区のNTT本社ビル。14階の受付では、遠隔操作できるロボット「OriHime(オリヒメ)-D」が出迎えてくれる。ロボットを操作するのは外出が困難な障害がある同社の社員だ。話しかければ応答もしてくれる。テクノロジーを活用した障害者雇用の新たな形として昨年7月から導入した。
コロナ禍で一般化したテレワークも、通勤が負担となっていた障害者の労働環境改善につながっている。
一方で、「こうした恩恵を受けられる人ばかりではない」と語るのは、人材サービス大手、パーソルホールディングス障害者雇用推進部の大濱徹室長だ。障害者の1~2割は、働きながら技能を身に付ける「就労継続支援A型事業所」で就業しているとされるが、こうした事業所でテレワーク環境が整っているケースは少ないからだ。
むしろ、コロナ禍でこうした事業所が請け負うビル清掃や郵便物の封入など簡易な仕事が減っている現実があるという。厚生労働省の調査では、令和2年度の障害者の求人は19万4746人と前年度から22・8%も減少した。
日本財団パラリンピックサポートセンターの集計では、各競技団体へのスポンサー金額も2年度は計約8億8200万円と前年度から13%減少した。コロナ禍による経済環境の悪化で、企業が障害者支援に振り向ける余力が低下していることもうかがえる。
ただ、障害者が働きやすいように業務を見直すことで、健常者にとっても働きやすい職場に生まれ変わり、生産性が向上するとも指摘される。
パラリンピアンの活躍は、多くの人に感動と勇気を与えた。しかし、大濱氏は「職場など身近なところで障害者と接する環境が増えなければ、本当の理解にはつながらない」と語る。共生社会が構築できるか、今後の企業の取り組みによるところが大きい。(蕎麦谷里志)
障害者雇用率 国や自治体、民間企業に一定割合以上の障害者の雇用を義務付ける障害者雇用促進法が定めた、従業者に占める障害者の割合。違反は納付金徴収や企業名公表の対象となる。今年3月、民間企業は0・1ポイント引き上げられ2・3%になり、対象企業規模も従業員43・5人以上(短時間労働者は0・5人と換算)に拡大した。