「この10年くらいの間で、日本の人の外国人に対する距離のとり方はすごく上手くなったと思います」と話すのはジュゼッペ・ジェルヴァジオだ。カメラは絞り方次第で写真の質がぐっと良くなる。同じように、日本の人たちが外国人に対して柔軟になってきた。そうジュゼッペは写真の喩えを使って日本人への印象を語る。
ジュゼッペはイタリア語・英語・日本語の3か国語の同時通訳者だ。第二次世界大戦で敗北したドイツを連合軍が裁いたニュルンベルク裁判を契機に1953年に発足した国際会議通訳協会のメンバーである。会員6人の審査を通過しないと入れない極め付きの実力が要求される。
G8など各国首脳の会議には必ずメンバー通訳が入り、ジュゼッペもイタリアのコンテ元首相と安倍元首相の会談でも通訳をした。作家の村上春樹、作曲家の坂本龍一、建築家の安藤忠雄、映画監督の是枝裕和と誰もが名前を知る人たちの言葉を訳してきた。精密小型モーターのメーカー・日本電産の永守重信会長とはもう10年以上のお付き合いで、欧州各国だけでなく南米にも飛んで会長の通訳を務めている。
漫画家の永井豪の通訳には殊の外、思い入れが強かった。というのもジュゼッペが6歳の時、永井豪のテレビアニメ『マジンガーZ』で初めて日本語に接したからだ。
ぼく自身もジュゼッペに同時通訳の仕事を何度かお願いしたことがある。プロフェッショナルな仕事ぶりには圧倒された。その彼が日本のトップの人たちが各国のトップの人たちとの会話や交渉のなかで、以前と比較すると固定観念(「…すべき」「…ねばならない」)から解放された姿勢を示すというのだ。
これは自己批判に熱心な我が同胞にぜひ聞かせてあげたいセリフだ。