デジタルデータによる履歴書を受領する企業が合計で6割以上に上ることが分かった。「筆跡で応募者の人柄がわかる」といった旧来の考えも根強く、手書きにこだわり、昨今の書類のデジタル化に逆行する向きも一部でみられた。そこには、求職者の高齢化やICT(情報通信技術)を活用できるかどうかが格差を生む「デジタルデバイド」など、日本が抱える社会課題も潜んでいる。
履歴書は「紙、手書き」根強く
採用サイト作成ツールを提供するネットオン(大阪市)の調査によると、履歴書の形態を紙に限定して郵送や手渡しで受け付ける企業は32.6%、PDFやWord(ワード)などのデータだけで受け付けるケースは3.9%、紙とデータの両方に対応は60.0%だった。
履歴書を紙に限定する企業に理由を聞くと「丁寧さを見ている」という回答が最も多く、「応募にかける真剣度合いが分かる」が続いた。
また、履歴書の形態が紙かデータかに関係なく、ボールペンやイラストや図形を描く際に使われるスタイラスペンによる「手書き」のみとするのが9.6%、キーボードなどによる「データ入力」のみが2.7%、「手書き」と「データ入力」のどちらでも可とするのが85.0%だった。
書き方を「手書き」に限定する企業は、「筆跡から人柄がわかる」「一般常識の確認」「昔からの習慣」を理由に挙げた。書類管理の都合も理由に挙がっており、履歴書のデータ化に対応するつもりがない姿勢の企業もあることがうかがえた。また、地域別では都市部の企業の方が地方と比べて履歴書のデータ化に対応している傾向がみられた。
DXの傍らでアナログも
ネットオンによると、調査に協力した企業の8割以上が中小企業。一般的に、認知度の低い中小企業は、大企業に比べ採用に苦労しがちだ。デジタル・アナログ両方の履歴書に対応する企業が多かった結果について、ネットオンの広報担当者は「応募者獲得のために申し込みのハードルを下げたい中小の狙いが表れたのでは」と分析する。
履歴書のデータ化が今後一般化するかどうかを聞くと、63%の企業が肯定的な意見だった。しかし、履歴書のやりとりすべてを、インターネットを通じて行う“完全ICT化”が浸透するのは難しい見通しだという。「求職者の中には定年後の再雇用を求める方や、パートやアルバイトの勤め先を求める方もいる。パソコンがなくて求人情報に触れられない家庭、高齢者もフォローしていく必要がある」(広報担当者)。
少子高齢化に伴う労働人口の減少と健康寿命の延伸を受けて、リタイア世代の人材や、子育てが一段落した主婦らが、再び社会で活躍できるようにする取り組みが国全体で進められている。就業可能だが求職活動をしていない潜在的な労働力を生かすことは、社会にとっても個人にとっても重要だろう。
ICTを活用した採用活動を行い、入社した人の働きぶりなどを分析して企業価値を高めるDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しつつ、一部では紙の書類をベースにした従来の応募にも対応する-。日本の人事部では、まだまだ“新旧二刀流”が続きそうだ。
ネットオンは5月7日~20日、同社のツール「採用係長」を利用する全国の事業者を対象にインターネット調査を実施。408の有効回答をもとに調査結果をまとめた。