働き方

新型コロナで進む働き方の変革 ジョブ型雇用の議論進展も

 新型コロナウイルスの感染拡大が、働き方の変革を加速させている。従業員を異業種に出向させる「雇用シェア」の取り組みが相次ぐほか、週休拡大や副業を認める動きも活発化する。テレワークなどオフィスに縛られない働き方は成果などを重視する評価方式の検討にもつながっており、雇用の在り方が大きく転換する可能性が出ている。

 「新型コロナで来店客が大きく減ったが、仕事があるのは助かる」。神奈川県内に約10店舗を展開する中華料理店「向陽飯店」の潘益強社長はほっとした表情を見せる。来店客の少ない時間帯を活用し、店舗スタッフが外食の宅配サービスを手がける出前館の配達員としても働けるためだ。

 出前館は来店客が減少した飲食店などの余剰人員を業務委託により配達員として稼働させる取り組みを進める。向陽飯店も委託契約を結んでおり、潘氏は「店内売り上げは新型コロナ前の約半分だが、従業員のシフトを減らさなくてもよくなった」と話す。

 雇用シェアの動きは、業績悪化した企業が雇用を維持しながら人件費を緩和できるとして、新型コロナ禍で広がった。ANAホールディングス(HD)がグループ社員を家電量販店などに出向させるほか、外食ではワタミが従業員を他事業者に派遣する目的で人材派遣会社を設立している。

 政府も今月5日、雇用シェアを推進するための「産業雇用安定助成金」の運用を開始。賃金や教育訓練費といった運営経費、必要となる新たな就業規則や機器の整備などにかかる初期経費について、出向元と出向先の双方に助成する。今年1月からの出向が対象で、さかのぼって支給される。

 「経済の不確実性から、働き方の見直し機運は醸成されていたが、新型コロナでいやおうなく、その流れが加速した」。リクルートキャリアの藤井薫HR統括編集長は強調する。

 変化は雇用シェアだけではない。みずほフィナンシャルグループは、グループ6社で希望する正社員に対し、週休3日または4日を認める。副業活用も進み、キリンHDは主要子会社の6千人に他社での勤務を一部制限付きで解禁。ヤフーは新サービスの企画を担当する人材を外部の副業人材から募集した。

 藤井氏は「働く場所などの自由度が高まったことで、従業員が企業に求める雇用環境が変わった。労働人口が減少する中、企業側も優秀な人材を集め、持続的な成長を目指すため、変化への適応が必要になっている」と強調する。

 テレワークの拡大など、オフィスに縛られない働き方が進んだことで、社員の評価制度などについての検討も始まり、特定の職務にふさわしい人材を社内外からあてる「ジョブ型」と呼ばれる仕組みを議論する企業も出てきている。

 欧米のジョブ型は、職務が終われば会社を去ることになるため、雇用維持を重視する日本企業にはハードルが高い一方、勤務時間より成果を評価しやすい仕組みとしてクローズアップされている。今年の春季労使交渉でも論点の一つに浮上している。

 日立製作所は新年度からジョブ型を本格化。デジタル人材採用コースを設け、4月には数十人が第1期生として入社する。給与は新人段階から能力に応じて個別に評価される。NECも令和3年度入社から、高度な専門領域でジョブ型の新卒採用を始めている。

 担当者は「グローバルな事業展開を視野に、多様な人材が能力を最大限発揮できる働き方が必要」と意義を強調している。(佐久間修志)

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