新型コロナウイルスによって経済、社会が激変し、ここ数年、賃上げムードを労使が共有した春闘は大きな節目を迎えている。大手企業の労組の中には従業員の基本給を一律に上げるベースアップ(ベア)の要求を見送る動きもあり、賃上げ水準の低下は必至。緊急事態宣言の再発令など一段と環境が厳しくなる中で、雇用維持やコロナ後の成長に向けた雇用制度のあり方が例年以上に議論されることになりそうだ。
2014年から政府が賃上げを要請する「官製春闘」の効果もあり、ベアも実現してきた。環境は激変しているものの、連合は今年もベア2%程度という6年連続の統一要求を掲げた。コロナ禍の中では厳しい要求であり、身内であるはずのホンダやマツダなどの労組がベア要求自体を見送る事態となった。
そうした中で、今春闘で例年以上に重視されるのが雇用と働き方だ。
国内の完全失業率は昨年11月時点で2.9%と欧米に比べてなお低水準にある。雇用調整助成金などの政府の諸施策が一定の効果を上げていることに加え、「コロナ感染前に人手不足で苦しんだ中小企業が、コロナ禍でも維持に懸命に取り組んでいる」(日本商工会議所の三村明夫会頭)ことで大量失業を抑止しているとされる。
雇用維持について、連合の神津里季生会長は雇調金の延長、給付金の拡充など政府のセーフティーネット強化を求める。そのために政府、経営、労組が「雇用維持が大前提」であることを共通認識とする必要性を強調する。
一方、経団連はコロナ危機を契機に働き方改革を強く打ち出す。テレワークによって、労働を時間だけで管理する日本型雇用慣行は限界を迎えていることが明確になったとし、労働時間法制の改正と、業務と成果で評価する欧米型の「ジョブ型」の拡大も訴える。
日本総合研究所の山田久副理事長は「今までの働き方とジョブ型を組み合わせる日本型のハイブリッドの雇用と賃金の制度が必要」と指摘。そのうえで、今春闘を「これらの制度変更に向けたきっかけにすべきだ」と話している。(平尾孝)