もう十数年前のことになるが、北京で中国中央テレビの番組に出演したことがある。ラジオ番組のMCが一堂に会して、自分たちの番組紹介をするという特別番組だった。(ノンフィクション作家・青樹明子)
そもそもラジオの司会者は、普段着にノーメークが多い。しかしさすがにテレビ出演となると、そうもいかない。局のメーク担当者が、次々と「顔を作っていく」のだが、驚いたことにメーク後ほとんどが同じような顔になった。個人の特徴を生かすよりも、決められた美人顔に作られていく。日本的なナチュラルメークに慣れていた私は、その濃い化粧になじまず「自分でやりますから」とやんわりお断りした。
ところが今、日本では中国風メークと中国コスメが人気だという。中国歴史ドラマのヒロインのように、眉をくっきりと描き、アイラインを濃く引き、ばさばさと風が起こるくらいにつけまつげをつける。肌は白く、頭髪は長く黒い。そんな中国風メークに注目しているのが、流行を牽引(けんいん)する女子高生達である。
「チャイボーグ」というのは、「チャイナ」と「サイボーグ」を掛け合わせた造語である。中国風のメークで、サイボーグ並みに人間離れした中国的美女という意味だ。2020年にかけて「JK」のトレンドとしてランキングされている。
日本の女子高生だけではない。本場・中国でも「チャイボーグ的メーク」は流行中だ。
中国で化粧品といえば、高品質、アジア女性に適しているという点で、圧倒的に日本製が求められてきた。そんななかでの中国産人気である。例えば「完美日記」を手掛ける広州逸仙電子商務は、創業からわずか2年で評価額10億ドル(約1040億円)以上のユニコーン企業となった。20年11月には米ニューヨーク証券取引所に上場し、時価総額は100億ドルを超えた。
質が悪い、偽物も多い、などと敬遠されてきた中国産品が“大化け”した理由は何か。
新興の中国化粧品メーカーは「90後」と呼ばれる1990年代生まれの若者を中心に急成長した。この世代は言うまでもなく「オンライン世代」である。彼らは商品情報やメーク方法まで、全てオンラインで入手している。メーカー側もそれを十分心得ていて、短い動画(短視頻)、ライブコマースで商品情報を発信し、インフルエンサーを積極的に活用するという方策を取った。
「完美日記」は「微信(ウィーチャット)」でトークグループを作り、顧客と企業を直接つないでいる。特徴的なのは、一方的な宣伝ではなく、双方向のコミュニケーションを目指していることだ。使用法にプラスして、メークのテクニックも発信している。
質が悪いという固定観念が強かった中国産も、企業努力によって成長できるということを、再認識した思いである。