ビジネストラブル撃退道

“オフィス削減”に敏感であれ 「通勤しない価値」が今後もたらす社会変化

中川淳一郎
中川淳一郎

 新型コロナの影響で、すっかりリモートワーク生活に慣れてしまった人々と最近立て続けに会った。そんな時によく聞いたのが「家賃の無駄」問題だ。2人だけの会社を経営する30代女性は「オフィスに互いに通わず、ただの物置になってしまっています。家賃がかかるだけなので引き払ってもいいかな、と2人で喋っています」と語った。

 大手IT企業に勤める20代女性は「会社に行っても人がほとんどいません。ウチの会社、こんなにフロア数多い賃貸なんですけど、こんなにガラガラなんだったら無駄ですよね。そもそもIT企業なんだから、元々出勤する必要なかったのかもしれませんよね」と語った。

 想定できる社会の変化

 多くの会社の総務担当が、現在この問題について悩んでいるのではないだろうか。会社の形態にもよるが、工場や店舗を構える場合以外の多くの業種ではオフィスの大幅削減は可能である。一度社内で匿名アンケートを取り「毎日通いたい」「週〇回通いたい」「必要な時だけ来たい」「絶対に来たくない」などの割合を見て、オフィスの縮小を考えても良いかもしれない。

 もちろん「子供が生まれた」などの事情で考えが変わることはあるだろうが、少なくとも「絶対に来たくない」の割合だけは把握しておいた方がいい。そうすれば適正なサイズのオフィスに移り大幅に経費を削減できることだろう。ただし、今回はオフィスの賃貸問題という話ではなく、こうした事態が各地で発生した場合、想定できる社会の変化について考えてみたいので、列挙してみる。

・鉄道の利用が減る

・オフィス用のビルの一部が住宅・ホテルに変化する

・ビジネスマンのランチ利用を当て込んだ飲食店が撤退する

・通信・リモートワーク関連サービスがますます隆盛となる

・運動不足解消のため、ジム需要が増加

・宅配需要の増加(荷物・食事)

・酒量の増加(酒好きは日中から飲んでしまう)

・椅子の高級化、家具の充実化

・自宅用コーヒーサーバーやウォーターサーバー需要増

・同僚との飲み会減少で旧知の友人との再会活性化

・パワハラ・セクハラが減る

・フリーランスが増加する。会社は社員とフリー契約をする

・フリーランスの増加に伴い顧客数が増え、税理士が儲かる

・フリーランス向けの保険が隆盛となる

・これまで過剰に準備されていた文房具の売り上げが減少する(ついつい会社の備品だと粗末に扱い、ボールペンを最後まで使わなかったり…)

 このように様々な変化が想定できるが、「通勤しないでもいい価値観」が一般化されたのは高度成長期のサラリーマン激増期以来初の大変革ではなかろうか。

 「芽」を見抜いて機会損失を回避

 これまでにあった大きな変化は「一人一台PC支給」「ポケベルから携帯電話、スマホへ」が筆頭に挙げられる。かつてPCが一人一台ない時代は、「Mac屋さん」などと呼ばれる、パソコンで企画書をきれいに作ってくれるオペレーターがいた。そうした人々が仕事を失ったり、バイク便需要も減ったりした。今回の「オフィスに通わないでもいい」はこれに続く大変化だ。

 現在上記のような「変化」が想定できるわけだが、これから働き方や社会はさらに変わっていくことだろう。その「芽」をいち早く見抜くことにより機会損失を回避することができる。また、特に不動産業者に対しては今後厳しい時代が来るかもしれない。冒頭の2人の発言に見られるようにいつ「もういらない」「縮小します」と言われてしまうのか分からないのだから。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) ネットニュース編集者
PRプランナー
1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『謝罪大国ニッポン』『バカざんまい』など多数。

【ビジネストラブル撃退道】は中川淳一郎さんが、職場の人間関係や取引先、出張時などあらゆるビジネスシーンで想定される様々なトラブルの正しい解決法を、ときにユーモアを交えながら伝授するコラムです。更新は原則第4水曜日。アーカイブはこちら

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