今日から使えるロジカルシンキング

あつ森でVALENTINOを着たい 「バーチャル空間でリアルを求める」層が出現 (1/2ページ)

苅野進
苅野進

 第34回 「リアル」とは何か? 強制的にバーチャルに放り込まれると…

 「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」をご存知でしょうか。任天堂の「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」という機器で楽しめるゲームソフトで、500万本を超える大ヒット作となっています。あつ森は、「敵を倒してクリアする」という昔ながらの設定ではなく、主人公が無人島で色々なものを手に入れながら自分の世界を作り上げていき、さらには友人のつくりあげた島へと遊びにいくなどの交流を楽しめるものです。

 大きなニュースになったのが、「THE MARC JACOBS(マーク・ジェイコブス)」や「VALENTINO(ヴァレンティノ)」といったアパレルのハイブランドが公式に、あつ森で主人公がゲーム内で身につける洋服のデザインを提供したことです。ここまででもうお分かりかもしれませんが、今回のテーマは「バーチャルな世界でのビジネス」です。

 「バーチャル=逃げ場所」ではなくなっている

 インターネット上に仮想世界をつくるというソフト「Second Life(セカンドライフ)」はリリースされた2003年当時、大きなブームになると煽られていました。バーチャルな世界での商行為の可能性が大きくクローズアップされていましたが、盛り上がらずに終わってしまいました。

 しかし、近年では当時とは比べものにならないくらい、「バーチャル」での生活が大きなウエイトを占めている人が増えてきています。あつ森というゲーム内でハイブランドのVALENTINOの洋服を着て何が嬉しいのか?」という感覚は、「リアル」を中心にビジネスをしてきた層にはまだまだ多いのかもしれません。

 一生懸命に写真を加工してSNSにアップする人に対して、「現実の自分を見つめて研鑚すべきだ」という批判じみた声を上げる人は少なくありません。しかし、ネット上の世界が実体のない虚構の世界だという考えは捨てなければなりません。ネット上のみで出会い、仕事が完結し、大きな金額まで動いている以上、ネットの世界はもはや「オフィシャル」な場になっています。スーツを着て、身だしなみを整えて印象を良くしようという試みと写真の加工は同じ意味なのです。

 「リア充」という言葉があるように、ついこの間までは「リアル」な世界が「バーチャル」とは別に存在していたと言えます。「リアル」には「リアル」の良さがあり、「バーチャル」には別のルールで事が進んでいく良さがあります。そして、社会的評価としては「リアル」が充実していない人たちが逃げ込む場のようなものとなっていました。よって、「写真加工」や「ゲーム内課金」による自分の“バージョンアップ”はリアルの住人からすれば独特の世界であり、ビジネスチャンスはあるにしても、リアル世界のビジネスに浸っている人間が簡単に顧客の心を掴むことのできる分野ではなかったのです。しかし、「ゲーム内課金」によって「バーチャル」が大きな商圏であることを理解しなくてはならなくなってきています。

 バーチャル世界でも価値観は「リアル」

 ここまでの話は、実はここ数年大きなテーマにもなっていたので新しさを感じない方も多いかもしれませんね。最後にこの3カ月ほどで大きなテーマとなっている切り口をご紹介したいと思います。

 それは、「リアルのルールから逃れるために、バーチャルな世界へと移行する」のではなく、「強制的」にバーチャルの世界に移動させられた人々が、「バーチャルな世界でも、自分たちの元の(リアルな世界での)ルールと価値観で行動したい」という動きのことです。

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