社会・その他

「避難できない…」通報殺到で間に合わぬ救助 早めの避難の重要性浮き彫りに

 多くの浸水被害が出た福岡県大牟田市。自宅から逃げ遅れて死亡した高齢女性は、2度消防に助けを求めていたが、すでに同様の通報が殺到していて救助の手は届かなかった。同市を豪雨が襲ったのは、熊本県南部で甚大な被害が明らかになった2日後だったが、住民の備えは必ずしも進んでいなかった。大雨は最短でも12日ごろまで続く予報で、新たな被害も懸念される。早めの対策の重要性が改めて浮かび上がった。(西山瑞穂、花輪理徳)

 「家に水が入ってきた」。6日午後7時半ごろ、同市樋口町の田中春子さん(87)は切迫した声で消防に通報した。近隣住民によると、田中さんは平屋に1人暮らし。普段歩くときには手押し車を使っていたといい、通報の中で「自分では避難できない」と訴えていた。

 約40分後、田中さんは再び119番して救助を求めたが、市内では夜までに約300件の通報があり、救助隊がすぐに対応するのは困難だった。

 ボートや潜水装備を備えた市消防本部の特別救助隊が、田中さんの家に到着したのは日付が変わるころ。付近の水深は2メートルほどに達していた。潜って室内に入った救助隊員が田中さんを発見したが、搬送先の病院で死亡が確認された。

 市消防本部の担当者は「市民11万人に対し、救助に動ける隊員は約100人。緊急性が高い通報から優先したはずだが、救えなかったことは悔しい」と肩を落とす。この地区では光野弘規さん(84)も自宅で死亡した。

 同市では6日午後2時15分に「避難準備・高齢者等避難開始」が発令され、この時点で避難所も開設。午後4時半には大雨特別警報に切り替わった。ただ、この地区は昼にはすでに冠水が始まっていたという。

 隣接する熊本県では2日前の4日の時点で豪雨による被害が明らかになっていたことに加え、ハザードマップでは最大3メートル以上の浸水も想定していた。

 それでも多数の住民は危機を感じていなかった。

 この地区は諏訪川に近く、土地も低いため、市は昭和38年にポンプ場を設置。雨水管を集約して川に排出できるようにした。複数の住民は「ポンプができてからは、道路が浸水してもひざ下くらいですぐに水は引く。今回もいつもと同じで大丈夫と思った」と口をそろえる。

 しかし、実際には、未曽有の雨はポンプの能力を大幅に上回り、ポンプ場は施設自体が水没して故障。避難した複数の住民は、水が押し寄せる切迫した状態で初めて避難に踏み切っていた。介護士の女性(56)は「熊本の災害はひとごとだったが、水が家まで上がってきて怖くなった」と話す。

 「災害弱者」への備えも十分ではなかったとみられる。民生委員の男性(76)には市が作成した「避難行動要支援者名簿」が渡されていたが、「どう活用すればいいか分からなかった」とうつむいた。

 災害時の避難行動に詳しい大阪大学の大竹文雄教授(行動経済学)は「避難のきっかけは、近所の呼びかけや周りが避難していたからというケースが多い。自分のためだけでなく、早く避難すればほかの人の命を守れるという意識を持ってほしい」と訴えている。

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