ミラノの創作系男子たち

「生き方に艶がある」高級ブランドのクリエイティブディレクター~女子編 (1/3ページ)

安西洋之
安西洋之

 ミラノ音楽院に近いアンナ・マリア・コンティチェッリの自宅は建物の最上階にあり、リビングルームの3分の1の天井はガラスで、その上には青い空が広がる。その空間のもう一方にはテラスがあり、緑と香りに溢れている。

 ぼくが何よりも驚いたのは、あまりに多くのオブジェや絵画、あるいはテーブルに積み上げられた数々の写真集や本がありながら、雑然とした雰囲気がまったくない。とても静かに、置かれるべきものがそこに置かれている。

 アンナ・マリアは高級ブランドのロロピアーナのインテリア商品の開発などに外部のクリエイティブディレクターとして関わっている。ただ、そういう職業上の才能の賜物だけで、この空間が表現されているのではない。

 日常のどこでも使われる素材をそっと忍ばせるのが彼女は好きで、テーブルの下の床には日本の畳を絨毯のように使っている。

 「イグサは一見凄いものには見えないけど、緻密な手仕事があってできているわけよね。それが魅力なの」と語る。

 アンナ・マリアに話を聞くと「生き方に艶がある」と思った。人生に質を求めてきたら、こういう佇まいになった。自身、ラグジュアリーな生き方をし、ラグジュアリーと言われる世界で仕事をしてきたが、数字やマーケティングではなく、常に感覚を研ぎ澄ませてきた結果である。

 イタリア中部ウンブリア州にある丘の上の街オルビエートに生まれ育った。あのあたりは古代ローマ時代以前に栄えたエトルスク文化の地域でもある。

 大聖堂の近くにある実家は、ごく普通の家庭だった。ただ、小学校の先生をしていたお洒落な母親から色や素材の見方を徹底して教わった。

 「もちろんDNAもあるだろうけれど、彼女から実際に学んだ部分は大きいわ」

 地元の高校を卒業すると、コンテンポラリーダンスが好きだった彼女はローマで舞台美術を勉強し、ミラノでデザインを学ぶ。その後、ヴァレンティーノなどのハイエンドのファッションメーカーのショーウインドーやショーの舞台デザインに関わるようになる。

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